見て見ぬフリをしていても、「みんなストレスでいっぱい」という現実は変わらない。そろそろ何か対策を打たないと。だって、基本的には健康体でも、ストレスによるダメージは忍び足でやってくるから。『Neurology』掲載の研究結果も、ストレスホルモンのコルチゾール値が高いと、健康な中年成人にも脳収縮や記憶障害が生じることを示している。しかも、この問題は男性より女性に多い。

この研究結果は重要な事実を浮き彫りにしている。ストレスは全身に影響を及ぼすけれど、起点となるのはあくまで脳。ストレスの原因はコルチゾールだけじゃない。歯ぎしり、私生活における冷遇、お金の悩みは、脳の灰白質によって認知され、ストレスとして解釈される。幸いにも、近年の脳研究で、より効果的にストレスを減らす方法が明らかになってきた。

まずは、脳の自然な反応で、女性がストレスの影響を受けやすくなる仕組みと理由を見ていこう。

ストレスが脳に影響を与える仕組み

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Carol Yepes//Getty Images

米メイヨークリニック・レジリアンスプログラムの生みの親で、同クリニックに医学教授として在籍するアミット・スッド医学博士によると、ストレスを増幅させる負の感情や精神疲労に現代人が苛まれやすいのは、何千年も前の狩猟採集民を守ってくれた脳の仕組みが現存するから。もちろん、人間の脳は時と共に進化してきた。でも、

現代社会の目まぐるしさについていけていないのが現状。「私たちの主なストレス要因は現代社会のスピードです」とスッド博士。「脳が適応できるスピードよりも、はるかに速いですからね」。その結果、日々の問題に対処する時間とリソースが不足して、自分ではどうすることもできないような感覚に襲われる。この感覚は非常に大きなストレス要因。

自著『Mindfulness Redesigned for the Twenty-First Century』の中でスッド博士は、私たちの脳が陥りやすい数々の罠(ストレス要因)を紹介している。中でも特に厄介なのは、この3つ。

集中力不足

狩猟採集民族は周囲を見渡す外向きの集中力で生き延びた。でも、現代人の集中力は内側に向いており、私たちは起きている時間の8割を注意散漫の状態で、とりとめのない思考に費やしている。

これまでの研究により、この状態は私たちから幸せを奪うことが分かっている。不幸になればなるほど気もそぞろになって、いろいろな思考だけが蓄積していく。スッド博士によると、これはパソコン(実際は脳の中)で無数のファイルが一気に開かれ、どこから手を付ければいいのか分からなくなっている状態に近い。私たちの意識を一瞬でかっさらうテクノロジーへの依存も、現代人の集中力不足に拍車をかける。

恐怖心

私たちの生存は、身体的・感情的な脅威を検出する脳(主に扁桃体)の能力にかかっている。恐怖を感じた瞬間に心拍数が上がると脳は、将来の危険から身を守る目的で、その情報を保存する。だから私たちの注意はよいニュースより悪いニュースに向きやすい(俗に“ネガティビティバイアス”と呼ばれる傾向)。脳は、恐怖を感じた瞬間や出来事の記憶を強くするホルモンも分泌するため、そういう記憶は蘇りやすく、蘇るたびに脳裏に深く刻まれていく。これでストレスが増幅するのは言うまでもない。

疲労

臓器の多く(心臓や腎臓など)は、どんなに体が疲れていても動き続ける。でも、脳は頑張って働いたあとに休みを必要とする。その作業が退屈であればあるほど、大変であればあるほど脳は早く疲れるので、たった4分しか持たないときもあれば、1~2時間持つときもある。目が疲れたり、ミスをしたり、効率が悪くなったり、意志が弱くなったり、気分が落ち込んだりするのは、脳が疲れているサイン(脳は痛覚受容体を持ち合わせていないため、自分の疲労を痛み以外の方法で伝えなければならない)。脳疲労がストレスになり、そのストレスで余計疲れるという終わりのない悪循環。

男性よりも女性のほうがストレスの影響を受けやすい理由

young man supporting female friend
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ストレスは、女性を目の敵にしていると言っても過言じゃない。米国心理学会の年次調査でも、ストレスが多いのは男性ではなく大抵女性。女性には、ストレスからくる体や心の問題(頭痛、腹痛、疲労、イライラ、悲しみ)も多く見られる。

また、米ウィスコンシン大学マディソン校エイジング研究所の調査によると、中年女性は、他のどの年齢層の男女よりもストレスフルな状況に直面しやすい。過剰なストレスは慢性疾患を引き起こすこともある。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の論文によると、長期に及ぶ家庭と職場のプレッシャーやトラウマ的な出来事によるストレスで、中年女性の2型糖尿病発症リスクは約2倍高くなる。そのうえ女性は、ストレスに起因する心の病(うつ病や不安神経症)も発症しやすい。

スッド博士いわく女性は、3つの理由でストレスやプレッシャーの影響を受けやすい。まず1つ目に、女性の脳は男性の脳よりも、ストレス要因とコントロールの欠如に敏感。2つ目に、女性の脳の辺縁領域(感情と記憶をつかさどる領域)は非常に活発なので、傷ついたときや侮辱されたときの記憶が残りやすい。いつまでも気に病んで、心のしこりを取り除けずにいると、その負の感情の脳回路が強化され(これもネガティビティバイアスの一例)、ストレスが増幅する。

そして3つ目に、家事や育児で大忙しの女性の注意は多方面に向けられる。前述の通り、1つのことに集中する暇がないのはストレス要因。スッド博士の話では、子供がいると母性本能が働いて脅威を感知しやすくなるため、心配事や悩み事も夫より多くなる。

男性は、なぜ分かってくれない?

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Kelvin Murray//Getty Images

ストレスに対する脳の反応の違いは、夫と妻、友達、同僚の物事の見方に影響を与えるため、それが理由で衝突が起こるのも珍しくない。あなたが女性なら、上司と言い争いになったときのことを思い出してみて。それ(こんな目つきで、こんなことを言われたから、こう思って、こう言い返したの!)を夫に愚痴ったら、生気のない顔つきで「もう終わったんだから、明日上司と話せばいいじゃん」と言われ、傷ついた/ムカついた/バカにされた感じがしたかもしれない。そして、そのとき一番強かった感情次第で、会話を口論に発展させたか、引きこもって1人熟考したか。

最近は、ジェンダーによってストレスの処理方法が異なる仕組みと、カップルが分かり合えなくなる理由を探る研究が進んでいる。米イェール大学医学部がfMRI(機能的磁気共鳴画像)を用いて脳の活動を測定した研究では、個人的に超ストレスフルな出来事を想像すると、男性の脳では行動と計画をつかさどる領域が活発化して、女性の脳では、その経験を頭に描いて認知的・感情的に処理する領域が活発化することが分かった。

この実験の後半では、極度の不安を感じると、女性の脳で活発化した領域が男性の脳では不活発になることも分かった。イェール大学学際的ストレスセンター長のラジータ・シンハ博士によると、つまり女性は長く考え込んだり何度も考え直したりして、ストレスの処理に忙殺される傾向が強いということ。

「女性は不安を口にしたり、自分の気持ちやストレス要因を言葉にしたりしてストレスに対処します」とシンハ博士。その結果、その問題を必要以上に反すうしてしまうこともある。一方の男性は、女性のように脳の認知処理領域を使わない。「女性は自分の悩みを言葉にしますが、男性は迅速に何らかの措置を講じようとする傾向にありますね。これは単に男女の脳の配線の違いです」

ストレスが溜まっている人を見ると、女性は精神的なサポートをしようとするのに対し、男性は助言や目に見える支援(金銭的なサポートや力仕事)をしようとするのも、脳の配線が違うから。でも、米ウェイクフォレスト大学コミュニケーション学准教授のジェニファー・プリエム博士によると、自分がストレスで苦しんでいるときは、男性も女性も精神的なサポートを求めるそう。つまり、その状況では、男性も女性も、女性からのサポートを好むということ。

ジェンダー間のストレスギャップを埋めるには

handsome man embracing woman calms in difficult moment
fizkes//Getty Images

プリエム博士の話では、ストレスになることが男女の間で異なると、カップル間に問題が生じる。あなたが本気でストレスを感じていても、パートナーは「自分だったら、そんなに大ごと扱いしない」という考えで、助け舟を出してくれないこともある。この場合、どうすれば自分が求める反応を得ることができるのだろう?

1.ただ聴いてもらう

「相手の気持ちに耳を傾け、その気持ちを認めてあげることが何よりも大切です」とシンハ博士。「良し悪しの判断をせず『かなり辛いんだね』と言うだけでも、相手の気持ちを認めていることになるので、その人の不安が軽くなります」

2.はねつけられると守りに入りたくなることを伝える

「パートナーに物事の重要性を軽視されると、自分の気持ちが強くなったり、自分の気持ちの正当性を相手に分からせたくなったりすることがあります」とプリエム博士。「そんなときは『私は本気で怒っているから、そうやって私の気持ちをないがしろにされるとイライラする。あなたには分からなくても、私が怒っているという事実には、ちゃんと反応してほしい』と言ってみましょう」

3.自分自身を思いやる

「女性は、自分の感情が抑えられない自分を批判しがちです」。だから、パートナーが批判するつもりで言ったわけじゃないことも、批判的なコメントとして捉えてしまう。そんなときは自分を許して、批判的な気持ちをリリース。お互いにハグすれば、緊張が和らいで前向きな気持ちになれる。

折り合いのつけ方を学ぶのは、緊張状態を解く上で大事なステップ。また、注意の散漫、恐怖心、脳疲労に対処する方法を見つけるのも大切なこと(次の項を参考に)。そうすればストレスと上手く付き合えるようになり、もっと健康で幸せになれるばかりか、脳の立ち直りも早くなる。

ストレスをコントロールして脳を落ち着かせるには

thoughtful woman with head in hands sitting on sofa at home
Westend61//Getty Images

ストレスを増やさないためには、健康的な食生活、定期的な運動、十分な睡眠で、自分の気分、感情、認知力を改善することが大切。これは基本中の基本。でも、ストレスフルな状況が次から次へと訪れる生活を送っていると、この基本さえなおざりになってしまう。そこで今回は、スッド博士が考案した米メイヨークリニック・レジリアンスプログラムから、科学的根拠に基づく脳のリラクゼーション方法を4つ紹介。1日数分で効果が得られる。

1.脳にRUMを与える

ここで言うRUMはラム酒ではなく、Rest(休息)、Uplifting emotions(高揚感)、Motivation(モチベーション)の略。脳の疲労予防と元気回復には、この3つが全部必要。何か作業をしているときは、1~2時間ごと(落ち着かなくなってきたらもっと早め)に3~5分の休憩を取り、脳にRUMを与えてあげよう。

HOW-TO:席を立つか作業の手を止めて、子供や旅行の写真を見たり、よい刺激になるような格言を読んだり、友達にメッセージか電話をしたり、ハッピーなショート動画を観たりして。気分がよくなり、自然とやる気が出るようなアクティビティを選ぶといい。

2.1日を感謝で始める

その日の不安で頭がいっぱいになる前に脳をコントロールして、心が落ち着いた幸せな状態で朝を迎えよう。

HOW-TO:目が覚めたら、ベッドを出る前に数分間、大切な人を思い出し、その人たちに心の中で感謝して。最近の研究により、起きて早々「今日も1日大変だろうなあ」などと考えると、実際はストレスフルなことが何もなくても、その思考が作業記憶(学習を支え、集中力が欠けているときも新しい情報を保持する能力)に影響したまま1日を過ごすはめになることが分かった。

3.“いま”に注意を向ける

瞑想がストレス解消に有効とはいえ、じっと座って20分も己の内面を見つめていられる人は少ない。でも、大丈夫。自分の外に注意を向けても脳の同じ回路が働くので、外の世界を意識的に観察すれば、瞑想に似たストレス軽減効果が得られる。

HOW-TO:何にでも興味を持って、カフェのバリスタの目の色や上司のネクタイの柄、近所に咲いている花の種類など、細かいことに目を向けよう。好奇心は脳の報酬系を活発にするので、気分がよくなるだけでなく、記憶力と学習能力も高くなる。

4.思いやりを大切にする

どんなによい人でも、自分と違う人については批判的になりがち(これは相違を脅威として捉える脳の扁桃体のせい)。

HOW-TO:誰かを批判したくなったら、人はみな特別であり、必ず何かと闘っているということを思い出して。そうすれば扁桃体が落ち着くから。まずは、道や会社のロビーですれ違う人に、心の中で幸運を祈ることから始めてみよう。すると、つながりや絆によって分泌されるオキシトシンの量が増え、心拍数が低下して、情け深い気持ちになれる。どれも健康と幸せに必要な要素。

※この記事は、アメリカ版『Prevention』から翻訳されました。

Text: Jenny Cook Translation: Ai Igamoto