毎日がストレスフルと感じる? 心と体のバランスを整える方法6
心を落ち着かせたいなら、専門家もすすめる方法を試して
不透明な毎日に不安を感じるなら、自分のメンタルに目を向けてみて。ラトガース・ニュージャージー医科大学精神科准教授のラシ・アガーワル氏は、「脳の感情中枢である扁桃体は脅威に反応して数秒以内に活性化します。脳の論理的な思考部分である前頭前野は、反応するのに時間がかかります」と説明する。脅威を感じると、心臓がドキドキし、血圧が上昇し、呼吸が高まり、闘争・逃走反応が起こるというのだ。
コルチゾールとアドレナリンの急上昇は、おなかのすいた虎から走って逃げなければならないようなときには役に立った。しかし、命に関わるような状況ではないにもかかわらず、脳がそのような信号を繰り返し出すことは問題。今回はストレスに感じたときにやってほしいことをご紹介。
ジョンズ・ホプキンス大学医学部のマインドフルネス・プログラムのディレクターであるネダ・グールド博士は、「このような慢性的なストレスは体にも精神にも影響を及ぼす可能性があります。ストレスが原因で病気になるというような単純な話ではありませんが、そこに関連性はあります」という。 研究によると、長期的な緊張は関節リウマチ、心臓病、慢性疼痛(まんせいとうつう)、高血圧、うつ病などの症状や炎症の増加と関連しているそう。
しかし、幸いなことに物事がうまくいかなくて、ぐるぐると考えてしまうときも、考えを整理する方法はたくさんある。
「人生のシーンや、それぞれの人によって対処方法は変わります。しかし、ストレスに対してより建設的な反応をするように脳を訓練することができるのです」とアガーワル博士。
栄養価の高い食事、友人との交流、十分な睡眠といった通常の生活に加え、脳を訓練して頭を整理する方法を身につけることで、心と体のバランスを保つことができる。
1.脳を休ませよう
感情が高まっている状態が連続すると、心は疲れてしまう。ハーバード・メディカル・スクールの精神科准教授であり、米国不安うつ病協会の会長であるルアナ・マルケス博士は「脳がオーバードライブしているとき、脳は平常を保つ方法を探し続けます。脳を活性化させればさせるほど、より不安は大きくなるのです」と述べている。そのため、起きている間に脳をシャットダウンして充電する時間を設ける必要があるという。
ニュースの内容で気持ちが左右されるという人は、ニュースサイトやソーシャルメディアに触れることを制限しよう。マルケス博士は、これはやるべきことだと言う。
「情報を得るには知識が必要ですが、常に脳を闘争モードにさせるほど必要ではないでしょう。脳を一度オフにすることで、考えられる状態にしましょう」と述べている。
メディアをすべて排除する必要はないが、利用時間を減らして。メディアを全部チェックするのではなく、1日1〜2回、情報源を1つか2つに絞ってニュースをチェックするように。同様に、ソーシャルメディアとも一定の距離をおいて、不要なプッシュ通知をオフにしよう。
また、脳のストレスがなんであれ、座っている状態から立ち上がることで、脳にブレーキをかけることができる。体を動かすと、抗炎症作用や抗うつ作用のあるポジティブな化学物質が放出されることは、多くの研究で明らかになっている。車のバッテリーが、車を走らせることで充電されるように、体を動かすことで、エネルギーを得ることができるのだ。
「疲れていたり、感情的になっているときは、何もしたくないものです。しかし、体を動かすと気分が良くなります」とマルケス博士。家の周りを軽く歩いたり、数回のジャンプをしたりするだけでも効果がある。
2.タスクは1つに絞る
自分はマルチタスクが得意だと思っている人が多いと思うが、それでは気がめいってしまうことも事実。1つのことに集中することで、気持ちを落ち着かせることができる。「人生の満足度を高めるには、今この瞬間に集中することです」とマルケス博士。幼児が目の前のなにかに没頭して、その状態に満足できていることを考えてみて。練習すれば、今この瞬間に集中し、気を散らせないことが、意味のあることが分かるだろう。
例えば屋外を歩くときは、スマホの電源を切ってまわりの美しいものに目を向けて。ペットを飼っているならテレビをつけずに、家族とおしゃべりをしたり、座ったりしてペットを抱いてみても。料理をするときは、音楽やニュースなどを流さず料理の香りや食感を存分に楽しもう。デスクワークや電話をしながらではなく、テーブルで食事をして一口一口をかみしめよう。「マインドフルネスを実践すると、この瞬間が唯一の現実であることを認識し、その中に美しさを見いだすことができます」とグールド博士。
不安に襲われたときは、次の行動に移る前に一度立ち止まって、焦点を変えてみよう。
「外に出て、深呼吸を3回して、この瞬間に身を置きましょう。そして、視覚、聴覚、触覚など、五感をフル活用して。小さな一歩が、心を落ち着かせるのにとても役立ちます。特別なトレーニングは必要なく、いつでもどこでもできて、心拍数や血圧を下げることができます」とグールド博士。
3.考え方を変える
困難な状況にうまく向き合うには、対処法が重要。
「私たちはネガティブな経験を押し殺してしまいがちだが、困難を乗り越えることができれば、レジリエンスを高めることにもつながります。もっとバランスのとれた見方をしてみてください。いつまでたっても終わらない、いつまでこんな思いをしなくてはいけないのか、と思うかもしれませんが、すべてのことにはいずれ終わりがあります。それまでの間、毎日小さな喜びをひとつでも見つけるために、何ができるか考えてみてください」とグールド博士。
また、同じことで悩み続けるのはやめて、一歩引いたところから全体を客観視してみよう。米国心理学会ヘルスケア・イノベーション・シニア・ディレクターのC・バイレ・ライト博士は「奪われたものに注目するのではなく、私や私の家族に与えられたチャンスは何か、という視点で状況にアプローチしましょう。これまでにたくさんの困難を乗り越えてきたのだから、今回の困難もきっと乗り越えられる、と自分に言い聞かせましょう」と述べている。
4.悲しみを受け入れる
悲しみは、死後に起こるものに限らない。解雇や離婚、あるいは今回のパンデミックのように、家族と過ごす時間や好きな場所に行くことができない状況が何カ月も続く時などにも起きる。さまざまな変化や喪失感が悲しみの引き金になることがあるのだ。このように人生の一部が失われたと感じて悲しむのは、普通のこと。
「自分が感じていることを認めて、困難な時期だったことを受け入れてください。私たちは、本当であればなければ得られなかったものを失ったことを嘆いているのです」とグールド博士。
自分の痛みを明らかにして認めることで、その痛みを和らげることができるが、忍耐が必要。悲しみは一夜にして癒えるものではないし、解決するまでの期間が決まっているわけでもない。友人に話したり、カウンセラーに話したりするなど、誰かと悲しみを共有する方法を見つけることが、自分の気持ちの処理に役に立つかもしれない。
食事の計画を立てる、時間通りに寝る、整理するなど、何かしら仕組みを維持し、自分でコントロールできることに集中することも、喪失感の中で平常心を保つのに役立つ。
5.楽しいことを計画する
ストレスがたまっていると、以前は楽しかったことでも面白くなくなってしまうことがある。
「そんな時は自分はリラックスしている、と定義して脳に伝えなくてはいけません」とアガーワル博士。
つまり、何か楽しいことを前もって予定しておくことで、脳に「楽しいことをしているのだから、それに集中して」と伝えることができるのだ。ドライブインで映画を見ようとか、ディナーを予約しようなど、定期的に「家族で楽しむ」夜を設けて。ボードゲームをしたり、ピザを作ったり、近所の人たちとバーベキューをしてみても。週末に工作をする時間を作ったり、友達とメールではなく電話をするのもよい。自分が本当に喜びを感じられることを計画しよう。
6.感謝の気持ちを忘れずに
ネガティブな思考を抑制するもう1つの方法は、生活の中にある良い点に注目すること。研究によると、感謝の気持ちを持つことは、うつ病、不安障害、薬物乱用、摂食障害などのリスクを下げることにつながる。また、自分が感謝していることを数分間考えるだけで、気分が良くなるという研究結果もある。
感謝していることをリストにしても。毎日、寝る前に感謝していることを5つ書き出す。お世話になった人にお礼の手紙を書く。また、30秒間目を閉じて、自分が感謝している人たちを思い浮かべるのもいいだろう。
「ストレスを感じると、脳はネガティブなことに意識が向きがちになるため、それを克服しなければなりません」とグールド博士は述べている。
実際は、気持ちが乱れた状態は永遠に続くわけではないし、自分でも知らなかった強さを発見することもできる。
「感謝の最終段階は、逆境に感謝することです。振り返ってみると、困難を乗り越えることで成長する機会が得られます」とアガーワル博士は述べている。確かに、私たちは何か大変なことを自ら選んで経験するわけではないが、乗り越えることで強く、健康的に、幸せになることもできる。
必要なのは助けを求めることかも
困難な状況を乗り越えるためには、特別な助けが必要な場合がある。ライト博士は「自分の体に向き合いましょう。筋肉が緊張していたり、歯を食いしばっていませんか? これは、あなたの体が『私に気を配って!』と言っているのです」と述べている。
助けを求めなくてはいけない兆候としては、 ベッドから出られない、機能していないように感じる、何をしても楽しくない、食欲や睡眠が妨げられる、いつもイライラしている、などが挙げられる。
こういった症状が複数、1週間以上続く場合は、主治医や、カウンセラーなどに相談しよう。
Text: Arricca Elin SanSone / Translation: Noriko Yanagisawa