「寝起きが悪い」「集中力が続かない」。そんな悩みを抱える人は「かくれ鼻づまり」かも。今回は、30年以上にわたり専門医として多くの患者を診てきた、黄川田 徹先生の著書『鼻専門医が教える 「熟睡」を手にする最高の方法』から鼻づまりをすっきりさせる方法をご紹介。あなたの抱えているトラブル、鼻づまりがよくなったら解消するかも。

眠れない理由は鼻づまりだった

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katleho Seisa//Getty Images

睡眠障害の原因はストレスや生活リズムの乱れなど様々だが、実は“鼻”が睡眠に大きく関係しているという。

「鼻がつまると息苦しさで自分では気づかないうちに脳が覚醒し、睡眠の質が悪化するからです。鼻は生命維持に直結する呼吸機能を担っており、鼻がつまって口呼吸になると十分な酸素を取り込めなくなります。睡眠中に鼻がつまれば、その苦しさから眠りが浅くなりますから、『熟睡できない』『寝ても疲れが取れない』ということになり、日中の眠気をもよおしたり強い疲労を感じたりするわけです」

黄川田先生のクリニックを受診した患者さんに行った問診時のアンケートでは、鼻づまりのため眠りが浅いことがあるという人は74%にものぼった。

また睡眠不足の状態が続くと重大な事故を起こすこともあるという。その引き金となるのが「マイクロスリープ」と呼ばれるもの。あなたも思い当たる節はないだろうか。

「マイクロスリープとは、本人が自覚しないようなほんの短い間、脳が外界の情報を取り入れることができなくなる状態で、完全に眠り込んでしまう『居眠り』とは異なります。マイクロスリープが危険なのは、そのほんの数秒が、交通事故のような重大な結果を引き起こすことがあるからです。マイクロスリープは慢性的な睡眠不足が続くことにより発生することがわかっており、具体的には、日常的に睡眠時間が7時間に満たないとマイクロスリープが起きるとされます」

実はたくさんいる「かくれ鼻づまり」

「でも私は鼻づまりを感じていないから大丈夫」と思う人もちょっと待って。慢性的に鼻がつまり気味の人の場合、「自分の鼻がつまっている」という自覚がないこともあるという。

「就寝中だけ鼻がつまる『かくれ鼻づまり』の人がたくさんいることです。鼻炎は一般的に日中はあまり症状がひどくなく、睡眠中に悪化しがちです。このため『自分は鼻炎だ』という自覚がまったくなく、鼻炎を放置している人は少なくありません」

あなたは「かくれ鼻づまり」? 早速下記のリストで当てはまるものがないかチェックしてみて。

「かくれ鼻づまり」チェックリスト

睡眠中

  • いびきをかくことがある
  • 口を開けて寝ている(うっすら開けている場合も注意。特に早朝)
  • 呼吸が止まることがある
  • 頻繁に寝返りを打つ
  • 夜中に目を覚ます

寝起き

  • 寝起きが悪い
  • 起きたときに疲労感が残っている
  • 朝起きたときに口や喉が渇いている

日中

  • 口で呼吸していることがある
  • 昼間に眠くなる
  • 集中力に欠けていたり、集中できる時間が短かったりする

身体の状態

  • 自覚症状の有無を問わず、「鼻炎」と診断されたことがある
  • 鼻水をよくかむ
  • 食べる時によく嚙まずに飲み込んでいる
  • 匂いに鈍感だと感じることがある
  • 運動するとき息苦しい
  • あごが小さく、歯並びが悪い
  • ぜんそくや気管支炎など、気道粘膜のトラブルを起こしやすい

上のリストのなかでも特に「悪い睡眠」に繋がるサインが下のふたつ。

【悪い睡眠のサイン①】口呼吸になっている

実は、呼吸は鼻でするのが当たり前なのであって、口呼吸は鼻呼吸の代わりにはならない

「口呼吸だと鼻呼吸に比べて血中の酸素濃度が低くなることがわかっています。これには、鼻腔や副鼻腔の粘膜から大量に生産されている一酸化窒素が関係しています。一酸化窒素には、肺の血管を拡張させて肺の中に取り込まれた酸素を効率よく血管内に移行させる働きがあり、重症の呼吸不全に対する吸入療法にも使われます。つまり、私たちは鼻から呼吸することによって一酸化窒素を取り込み、吸入療法と同じ効果を得ているわけです」

【悪い睡眠のサイン②】いびき

いびきは「かくれ鼻づまり」の代表的な症状だという。

「いびきは主に鼻炎による睡眠中の鼻づまりによって起きており、『睡眠時無呼吸症候群』の前駆的な状態である睡眠呼吸障害を起こしています。睡眠中に鼻腔の粘膜が腫れ、空気が通りづらくなると、息苦しさのために口を開けて呼吸をし始めます。口を開けると舌がのどに落ち込んだり、のどの筋肉が緩んだりして、のどは狭くなります。狭くなったのどを空気が通ると、のどの組織が振動して音が出ます。この音が『いびき』です」

ではいびきをかいて口呼吸になっているとき、体にどんな負担かかっているのか?

「口でも呼吸できますが、鼻からの呼吸と口からの呼吸を比較した場合、口を開けた状態の呼吸は首から上の気道の圧(上気道圧)が2.5倍に増加することがわかっています。気道の圧が高いということは、つまり『息が吸いにくい』ということです」

熟睡を手に入れる鼻づまり解消法

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DarioGaona//Getty Images

“鼻”が大きく睡眠に関わるのがわかった。鼻づまりを感じる人にぜひ試してもらいたい解消法を紹介。

【鼻づまり解消法①】鼻洗浄

鼻を生理食塩水で洗い流す鼻洗浄が効果的。

「空気中の花粉やほこり、細菌などの粒子のほとんどは、鼻の入り口から3分の1くらいのところで補捉されて、鼻の粘膜は補捉した粒子を粘液と一緒に胃のほうに流して無害化していきます。そのため鼻の入り口から3分の1くらいのところを生理食塩水で洗い流せば鼻炎症状の原因となるアレルゲンを積極的に取り除くことができ、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどのアレルギー性鼻炎の症状を減少させる効果があります」

鼻のクリニック東京鼻うがいの方法

【鼻づまり解消法②】鼻炎薬

くしゃみや鼻水を抑える効果がある鼻炎薬を使用するのもおすすめ。使用するときは注意しながら服用して。

「抗ヒスタミン薬」

アレルギー性鼻炎に古くから使われており、くしゃみや鼻水を抑える効果があるが、鼻づまりにはほとんど効果がない。

「ステロイド内服薬」

鼻腔の腫れた粘膜全体を改善させるため、鼻づまりの治療薬として高い効果が望める。しかし、成長を抑制したり副腎機能を抑制したりといった全身に影響を及ぼす副作用があるため使用には注意が必要。

「ステロイド点鼻薬」

内服薬に比べて効果は劣るものの、全身的な副作用のリスクが低いというメリットがある。アレルギー反応に関与する多くの伝達物質を抑制する効果があり、くしゃみ、鼻水、かゆみだけでなく、鼻づまりも改善される。

そもそも鼻炎というのは完治するものではないという。黄川田先生によると「ゴールは鼻炎の症状をコントロールしやすい程度に抑えて睡眠中の鼻づまりを軽減し、睡眠の質を改善して心身のパフォーマンスをあげること」。

よい睡眠にはよい鼻環境が大切だから、ぜひあなたも鼻の状態について見直してみて。

参考書籍:『鼻専門医が教える 「熟睡」を手にする最高の方法』( 日本経済新聞出版)

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この本を書いたのは……

黄川田徹先生

黄川田 徹(きかわだ・とおる)さん

医師。医療法人社団アドベント理事長。鼻のクリニック東京院長。

医学博士(東京大学)、American Rhinologic Society会員。

1948年岩手県陸前高田市生まれ。1974年岩手医科大学卒業、1974年東京大学医学部耳鼻咽喉科助手、1979年 松戸市立病院耳鼻咽喉科医長、1983年浜松医科大学耳鼻咽喉科講師、1983~1985年ドイツErlangen大学HNO‐Klinik留学。1991年「サージセンター浜松」、2006年「サージセンター名古屋」を開設。2008年「東京サージクリニック」を東京都中央区に開設する(2012年「鼻のクリニック東京」に改名)。「鼻治療のスペシャリスト」として日々の診療のほか、メディアへの登場も多数。

著書に『こんなに怖い鼻づまり! 』(ちくま新書)、『鼻のせいかもしれません』(共著、筑摩書房)など。

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Yumi Kobayashi
エディター

 生活雑貨やコスメなどの記事編集の経験を積み、2023年5月から「ウィメンズヘルス」に参加。コスメやアロマテラピーの資格を持ち、正しい知識を伝えることを目標に日々勉強中。フードやサスティナブルな分野に興味があり、週2日のノーミートデーを実践するなど日常生活でのアウトプットを心掛けている。学生時代はラクロスとソフトテニスに没頭、今は漫画に影響されバスケにハマり中。休日はキャンプやフェス、山登りなどアウトドア派。