睡眠にまつわる悩みを抱えている人は多いもの。睡眠については様々なアプローチがあるけれど、今回は臨床心理士の南舞さんが心理学的な方法で睡眠をサポートする方法を解説する。

睡眠に悩む女性は多い?

usa, new jersey, jersey city, senior woman sitting in bed and suffering from headache
Tetra Images//Getty Images

カウンセリングの最中やヨガのクラスでの何気ない会話の中で、話題にあがるトピックのひとつが【睡眠】。『熟睡できない』『眠りにつくのに時間がかかる』など、様々な悩みを聞きます。眠れない日が何日も続くと体の不調に加え、心の不調にもなりやすくなりますし、何より『このままずっと眠れないのか』という見えない先への不安がつきまとうのはしんどいものです。

ところで、男性に比べて女性の方が睡眠の問題を抱えやすいということを知っていますか? Zhangらの研究では、女性は男性よりも不眠のリスク高い傾向が見られるということを報告しています。それ以外にも様々な研究の中で、女性の方が睡眠の時間や質に影響が出やすいということが明らかに。また、別の研究では、睡眠の影響によって起きる身体疾患やその重症度は女性の方が高いということも分かっています。なぜ女性は睡眠の影響を受けやすいのか。その背景には以下のような理由があると言われています。

1.生物学的な理由

女性の睡眠を考える上で、性ホルモンが与える影響は大きいようです。月経周期とともにホルモンバランスが変動し、それによって体温リズムや睡眠脳波にも変化が起きます。そのために睡眠の時間や質に影響が出てしまうとのこと。特に、ホルモンバランスの影響が大きく揺らぐ更年期の女性の場合、42〜57%が不眠の症状を訴えていたという報告もあります。

2.心理社会的な理由

女性の場合、ライフイベントの多さがストレスとなり、そのストレスが睡眠に影響したり、性ホルモンのバランスの乱れを助長する可能性があると考えられています。女性たちが経験するライフイベントとは、例えば以下のようなことです。

・仕事先でのプレッシャーや人間関係
・結婚など将来への不安
・結婚に伴う環境の変化やパートナーやその家族との人間関係
・仕事と家庭の両立
・不妊治療に伴う身体的な負担や心理的ストレス
・妊娠中の不安
・産後の身体的・心理的なダメージ、育児不安
・社会からの疎外感
・子供の進学や独立に伴う環境の変化やパートナーとの新たな関係の築き方への戸惑い
・自分のキャリアの築き方への不安
・両親の介護

『眠れない……』そんな時にできる心理的ケア

sitting and meditating at home
Valentina Stankovic//Getty Images

ストレスやホルモンバランスの影響を受けないようにするというのは、残念ながらなかなか難しいこと。『影響を受ける可能性がある』ということを前提に、影響が出た時には必要なケアをすること、あるいは対処法を事前に知っておき、困ったときは試してみるという視点を持つことが大切なのだと思います。そこで、心理学的にできる睡眠へのケアについてお伝えします。

1. 睡眠についての正しい知識を身につける

    カウンセリングの場面では【睡眠衛生教育】と呼びますが、睡眠のメカニズムなど正しい知識について学びます。それによって、睡眠に対する誤解が解けたり、睡眠に対する思い込みに気づくことができます。例えば、以下のようなことは睡眠に対して起きがちな誤解と言われています。

    《睡眠に関しておきがちな誤解》

    ① 睡眠時間は7〜8時間取らなければいけない

      医師の渡辺氏によると、昼間に眠気がなければ、時間はあまり考えなくても良いとのこと。必要な睡眠時間は人それぞれなので、長い時間をとることにこだわらない方が良いのかもしれません。

      ②眠れないけど布団の中で過ごす

        眠れないけれど、体を休めるために横になる、スマホを見ながら眠るまで時間を潰すなどやりがちではないでしょうか? しかし、リラックスした状態でないと眠りにつくことはできないので、『眠るために頑張る』は逆効果なのだそう。

        2.睡眠の環境を整える

          睡眠の質を高めるために、まずは手軽に取れる行動として、快適な睡眠をとるための環境を整えることがオススメです。例えば以下のようなことを意識してみると良いでしょう。

          《快適な睡眠のための環境》
          ・定期的に運動をする
          ・光や音が入らないようにする
          ・寝室を快適な温度に保つ
          ・食事をとり空腹にならないようにする
          ・水分の取りすぎに気を付ける
          ・寝る2時間前のアルコールや喫煙を避ける
          ・午後3時以降はカフェインの入った飲み物を取らないようにする

          3. 睡眠日記をつけてみる

            これは【睡眠モニタリング法】と呼ばれるものですが、就寝時間・起床時間・寝つくのにかかった時間・昼寝の時間などに加え、食事の時間や内容、運動した時間、飲酒の有無などを睡眠日記として記録してみましょう。また、その日にあったことを一言書いておくのも良いでしょう。こうして目に見える形にすることで、睡眠を妨げる原因になっているものが見え、対処法が見つかるかもしれません。

            4.睡眠力を高める方法を実践する

              布団やベッドに入っているのに、眠れない時間が長く続くのはとてもつらいですよね。そこで、睡眠力を高める方法のひとつ、【刺激コントロール法】と呼ばれる技法をご紹介します。刺激コントロール法とは、心理学の理論を利用して、布団やベッドに横になったら自動的に眠くなるというサイクルを作るための方法です。サイクルを定着させるために、平日・休日ともに関係なく行うようにしましょう。具体的には以下のような行動がオススメです。

              《刺激コントロール法に基づく行動》
              ・布団やベッドでは、睡眠以外の行動は避ける(スマホ、読書など)
              ・睡眠中に約15分以上目が覚めてしまったら、ベッドや布団・あるいは寝室を出る
              ・眠くなったときだけ布団やベッドに戻る
              ・朝目が覚めたら、早めに寝室から離れる

              5.リラックスする方法を知る

                心理学では【リラクセーション法】と呼ばれますが、体の緊張を緩めたり、眠れないことでの不安や焦りの気持ちを沈めてくれる効果があります。心理学では、自律訓練法や筋弛緩法、呼吸法と呼ばれるものが推奨されていますが、筆者はヨガ講師でもあるので、眠る前にヨガを行うのも良いと思います。様々な流派がありますが、長い時間動きを止めて筋肉をゆるめて呼吸を深めてくれる陰ヨガや、シャバーサナという寝た状態のポーズをとり、意識を覚醒したまま瞑想を行うヨガニードラなどがオススメ。これらのリラクセーション法は1人で行うこともできますが、難しいという人もいるでしょう。そんな時は、youtubeやオンラインレッスンサービス、瞑想アプリなどで、講師の誘導を聴きながら行うと安心して取り組めるかもしれませんね。

                これらの方法をオススメしないケースとは?

                caring counselor listening to female patient
                SDI Productions//Getty Images

                様々なやり方を紹介しましたが、気をつけなければいけないケースがあります。それは、眠れない状態が深刻で、心身の不調や、日常生活に支障が出ている場合。そういった時は早めに医療機関を受診するようにしましょう。放置したり、我流でなんとかしようとすることで、状態が悪化してしまう恐れがあります。

                快適な睡眠を手に入れよう

                woman waking up and relaxing near window at home
                Maria Korneeva//Getty Images

                今回ご紹介した方法のすべてを取り組むのはハードルが高いかもしれません。まずは自分の中でやりやすいものを一つ選んで取り組み、できたら増やしていくというステップを踏んでいくと続けやすいと思います。眠りについての悩みは、カウンセリングの中でもお話できると思いますので、専門家とともに考えてみるのもオススメ。快適な睡眠を手に入れ、心身ともに健康な状態でいられるようにしたいものですね。

                【参考文献】

                渡辺範雄(著)『自分でできる「不眠」克服ワークブック』創元社(2011)

                香坂雅子『女性の睡眠と健康』保健医療科学 Vol.64 No.1 p.33-40(2015)

                渋井佳代『女性の睡眠とホルモン』バイオメカニズム学会誌,Vol. 29, No. 4 (2005)

                Zhang B, Wing YK. 『Sex differences in insomnia: a meta-analysis. Sleep』29 85-93.(2006)

                Maggi S, Langlois JA, Minicuci N, et al. 『Sleep complaints in community-dwelling older persons: prevalence, associated factors, and reported causes.』 J Am Geriatr Soc (1998)46:161-8.

                Goonaratna, C., Fonseka, P., and Wijeywardene, K.:『Perimenopausal symptoms in Sri Lankan women』 Ceylon Med J, 44, 63-69, (1999).

                Owens, JF., and Matthews, KA.: Sleep disturbance in healthy middle-aged women, Maturitas 30, 41-50, (1998).

                Headshot of 南 舞
                南 舞
                ライター

                臨床心理士。岩手県出身。多感な思春期時代に臨床心理学の存在を知り、カウンセラーになることを決意。大学と大学院にて臨床心理学を専攻し、卒業後「臨床心理士」を取得。学生時代に趣味で始めたヨガだったが、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングと近いものを感じ、ヨガ講師になることを決意。現在は臨床心理士としてカウンセリングをする傍ら、ヨガ講師としても活動している。   公式HP: mai-minami.com Instagram: @maiminami831