イギリス版ウィメンズヘルスが読者アンケートを行ったところ、ホルモンや婦人科系の問題を抱える人の57%は、それがキャリアに悪影響を与えていると感じていた。だからこそ、子宮内膜症、子宮筋腫、月経前不快気分障害(PMDD)といった婦人科系の問題が仕事に与える影響の解明に乗り出した。

一体なぜ? そのときの心情は? どうすれば、その現状が変えられる?

ローレン・チレンが「何かおかしい」と思ったのは、仕事のストレスにうまく対処できなくなったとき。「私はストレスの多い環境に慣れていますし、チャレンジを生きがいにしています。困難は、むしろ大歓迎です。いつも少しピリピリしていて、忙しく動き回っているタイプですね。時速160kmで走る車みたいに」 

「何事に関しても一歩先を行かないと気が済まないタイプでしたが、実際いつも一歩先を行けたから、この神経質な性格が邪魔になっていませんでした」

グラスゴーの家族から遠く離れたブリストルで大手企業のシニア管理職につき、特別なヘルスケアが必要な子どもを1人で育てるローレンは、大きな責任を負うことに慣れていた。

ストレスはマーシャルアーツとウエイトリフティングで解消していた。気楽に付き合える友人も多かった。

ところが、ある日、ローレンを思いがけない動悸が襲う。「会議中、椅子のアームレストをつかんだまま、ときが過ぎるのを待っていたのを覚えています。まさか自分が動悸に襲われているなんて当時は思いもしませんでしたが、アームレストを離したら、椅子から落ちることだけは分かっていました」

「それまでの私は、パニック発作どころか大きな不安を感じたことさえなかったんです。でも、あのときの私に分かることと言えば、背筋を伸ばして息をすることに集中しないと、気を失って床に落ちるということだけでした」とローレンは当時を振り返る。「それからは、8年以上一緒に働いてきた同僚の名前が思い出せなかったり、18人の社員の前で『プラン』という言葉が思い出せなかったりという出来事が続きましたね」

当時43歳のローレンは、知らぬ間に少し早めの閉経期を迎えていた。ローレンにとって早発閉経は“体の欠陥”だったので、彼女の自信は大きく失墜。「これは絶対、若年性認知症だと思いましたね。この若さで働けないなら、もう二度と働けない。働けないなら、息子も育てられないと思いました」

明らかに、ローレンの思考は悪循環に陥っていた。でも、ローレンは友達付き合いを完全にやめていたので、その思考に誰かが疑問を投げかけることはなかった。心配させたくないという気持ちから、家族にも黙っていた。そして、上司の前で失態をさらすようなことだけは絶対にないようにした。

「18カ月、その状態でいましたね。その間は何とか職場で持ちこたえ、できるだけよい母親でいることだけを考えていました」。このときのローレンは自分のニーズがまったく分からなくなっていた。その証拠に、息子が通う子ども病院を支援するためにマラソンを完走すると決め、もともとランナーでもないのに、ほぼ毎日、朝6時から走り込んだ。

「そうしたら、それまでとは全く違うタイプのケガをするようになりました。(閉経に伴う)生理学的な変化を受け入れず、体を追い込みすぎていたからです」

ローレンがパニック状態で病院へ行ったところ、医師は「ストレスによる“気分の落ち込み”ですね」と言った。週に何十時間も働き、特別なヘルスケアが必要な子どもを育てながら、少しでも時間があれば走るという生活を続けていれば、ストレスが慢性的に高くなる。

「先生には『1カ月休みなさい』と言われましたが、私は『休職なんて一度もしたことありません。そんなことできません』と言い返して。最終的には“1カ月”で話がつきましたが、1カ月でも死ぬほど嫌でした。でも、最初の1週間が終わる前に私から病院に戻って、『もっと時間が必要です』と言うはめになりました。その言葉を口に出すのもやっとで、1カ月が5カ月になりました」

その間も、どこがどう悪いのか分からなかった。でも、いままでのように働けないことだけは受け入れて、ローレンは退職を決意した。「休職中も、人事と話すたびに訳の分からないことを口にしていました。病院でも毎回です。完全に自分を見失っていましたね」

ローレンの担当医は、ここでやっと血液検査を行った。「医師からは『少し早いけれど、43歳で閉経期に入っているだけだから』と言われました。私は嬉しさのあまり、泣き出してしまいました。認知症じゃないことが分かって心底ホッとしたんです」

これ以上、自分と同じ思いをする女性を増やしたくない。そう思ったローレンは、猛烈に勉強して閉経期専門のコーチとなり、多数の企業と連携し、閉経期の女性が働きやすい職場づくりを開始した。それから10年、いまやローレンのビジネスは大繁盛。

ローレンに言わせると、中年女性が働きやすい職場づくりは企業だけの課題じゃない。「これは社会で取り組むべき課題です。まずは、学校や家庭におけるサポートが必要ですから」

「仮に若い女の子たちが事前情報一切なしで生理になったら、どうなると思います? 私の世代にとっては、閉経がそうだったんです。閉経のことなんて誰も教えてくれませんでした。ホルモンバランスの大きな変化が日常に大きな影響を与えるなんて、聞かされていませんでした」

この一連の出来事からローレンは、女性に限らず人の人生が健康状態ひとつで激変することを学んだ。男性優位の厳しい企業文化の中で出世の階段を這い上がってきたローレンには、私生活を二の次にしないと本気で仕事にコミットできないことも分かっている。

「10年前や15年前の私なら『お給料をもらっているなら休まずに働いて、私生活を二の次にするのが当たり前』と言っていたかもしれません。でも、いまの私には、そうできないときもあることが分かっています」

「企業がデキる人間を育てたいなら、職場環境を根本的に変えなければなりません。そして、その対象は、女性だけでも一部の人でもありません。全ての人を個別に扱い、目の前のタスクだけでなく、1人ひとりの人間と向き合うことが大切なのです」

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Roisin Dervish-O'kane Translation: Ai Igamoto