2019年、スコットランドの中距離ランナー、エイリッシュ・マッコルガンは、家から遠く離れたカリフォルニアで、ペイトン・ジョーダン招待陸上10キロマラソンのフィニッシュラインを切ろうとしていた。このまま行けば、世界選手権の出場資格が得られるタイム。何カ月ものトレーニングが報われる。でも、残り5週になったとき、数日前に痛めたスネと生理痛が原因で途中棄権。マッコルガンはインスタグラムで「レースの数日前から当日にかけて生理が来ると、99%の確率で最悪の走りになる」と悔しがった。

こういう率直な投稿は、必要とされているのに希少。だから当然、一瞬で世界中に拡散された。「あの反響には驚きました」とマッコルガン。「私にとっては、いつものことだったので。投稿するまで、ランナーはみんな生理痛に苦しんでいると思っていました」

その年のワールドカップで優勝したアメリカの女子陸上チームは、情報番組『グッド・モーニング・アメリカ』に出演し、勝てた理由は生理周期に合わせたトレーニングにあると語った。そして、ときは2022年。グローバルなスポーツメーカー各社はやっと、心拍数と同じように生理をトレーニングの要素として捉え始めた。アディダスは、生理とエクササイズの関係を説明する学校用のプレゼンテーションスライドを作成し、漏れを防ぐサニタリートレーニングパンツの販売を開始した。一方のナイキは、自社アプリ『Nike Training Club』に生理中のトレーニングプログラム『Sync』を追加。『The Class』のようなブティック系フィットネスクラブも、生理周期に合わせたワークアウトプログラムを展開している。

「この5年から10年で、人々は男女の体が違うことに本当の意味で気づき始めました」と話すのは、スポーツ科学企業『Orreco』の運動生理学者、エスター・ゴールドスミス。「男性アスリート向けのガイドラインは、女性の視点で書き直されなければなりません」。それを実行に移しているのが先述のプログラムの数々。

今回は、生理の認識がどのように変化しているかをアメリカ版ウィメンズヘルスから見ていこう。

その昔、『Nike Run Club』コーチでマラソン選手のリディア・オドネルは、生理が止まるまで自分を追い込んでいた。「コーチ陣から、生理が止まらないうちはトレーニングが足りないと言われていました」とオドネルは当時を振り返る。「それがスポーツの文化でした。コーチ陣に教養がなかったのです」。最終的にオドネルは、オーバートレーニングと燃料不足による虫垂炎で入院を余儀なくされた。

その経験からオドネルは、自分の体とトレーニングに対するアプローチを大幅に変え、生理周期に合わせたトレーニングを求める女性ランナー向けコーチング会社『Femmi』の共同設立者となった。クライアントは世界中にいる。「自分の体に逆らってまで頑張る必要はありません」とオドネル。「生理機能を理解すれば、アスリートとして成長できます」

現代の生理用品は初経体験をラクにする

reusable cloth menstrual pads and menstrual cup on white background
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女性には、初めてナプキンを使った日の記憶が必ずある。吸収力を証明するため、羽根つきの厚いナプキンに青い液体が注がれるCMを観ていた人は、ゴワゴワしたナプキンの不快感も知っている。幸いにも、おむつのようなナプキンの時代は終わり、スリムでスタイリッシュな吸水型サニタリーショーツ、月経ディスク、月経カップ、オーガニックコットンのナプキンがネットで頼める時代になった。「若い世代は、よい製品を期待するだけでなく強く要求してきます」と話すのは、生理用品メーカー『The Organic Project』共同設立者のダニエル・フィンケルシュタイン。

このフィンケルシュタインと『The Organic Project』を設立したタイム・サリバンは、消費者製品メーカーに勤務していた20年で、さまざまなカテゴリーの製品がオーガニックまたはエコになる瞬間を目撃した。「でも、フェミニンケア製品には変化が見られませんでした」。それを変えたのは、最近おなじみの『Thinx』『Lunapads』『DivaCup』『Flex』といった企業。女性デザイナーが先頭に立ち、幅広いオプションを生み出してくれたおかげで、自分に合った生理用品を見つけるのが難しくなくなった。

フェミニンケア業界は「生理は恥ずかしいもの」という認識を変えるため、商品の宣伝方法も見直している。一部の国では、あの青い液体の使用をやめた結果、生理を「隠さなければならないもの」「恥ずかしいもの」と考える人が減っている。オーストラリアの下着メーカー『Modibodi』は、2020年9月からCMで血のりを使用(フェイスブックは当初、ガイドラインに反しているとしてこの広告を禁止したが、のちにその決定を撤回している)。

『The Organic Project』も、先陣を切って初経体験を変えようとしている企業の1つ。その証拠として同社は、若い女性向けヘルス情報サイト『Girlology』の協力のもと、初心者でも使いやすいナプキンやタンポン、生理に関する資料を詰めた『初めての生理ギフトボックス』の販売を開始した。同社のホームページには、家庭における生理教育を促すためのリソースもある。

初経体験は、その後の生理に対する見方を決める。「生理の話をしてあげるのが早ければ早いほど、子供は目を輝かせます」と話すのは、小児科医で『Girlology』共同設立者のトリシュ・ハチソン医学博士。「子供たちは気持ち悪がったりしませんし、心の準備にもなるでしょう」。

生理用品をもっとアクセシブルにする動き

「生理が恥ずかしいもの」とされているのはほかの国(生理中は神聖な場所に入るどころか料理をすることさえも禁じられているような国)の問題で、自分の国には関係ないと思うかもしれない。でも、科学情報誌『PLOS ONE』によると、先進国の女性の多くは、生理を隠し、会社や学校へ行くために生理用品を買わなければならないという重圧に苦しんでいる。つまり、これはグローバルな問題。

アメリカの27の州で、生理用品に消費税がかけられている。ほかの医療必需品は非課税なのに、おかしいでしょう? だから、この税法の改正と、生理用品の改善および無料化を訴える人たちに感謝して。しかも、その人たちのたゆまぬ努力は実を結びつつある。

数年前、法学部生のローラ・シュトラウスフェルドは、必需品を買うためにニューヨークシティの薬局に立ち寄った。「リップクリームは非課税なのに、私が買ったタンポンは課税でした」。それに異論を唱えたシュトラウスフェルドが集団訴訟を起こすと、ニューヨークのタンポンはたちまち非課税になった。

これが革命の始まりだった。シュトラウスフェルドは、法廷で勝つための戦略を練り、法改正に特化した非営利団体『Period Law』を立ち上げた。その一方では、地元の学生や活動家がアメリカ各地で群れを成し、組織化した。

いまでは、アメリカの13の州で生理用品が非課税となっている。直近のミシガン州では、2党間の合意によって法案が可決された。ユタ州やアーカンソー州を含む残りの州では、この法改正運動が今日も続いている。

変化は別の方面でも起きている。「生理用品にかかる費用は、州がまとめて負担しなければなりません」とシュトラウスフェルド。「トイレには生理用品が無料で置かれているべきです」。つい最近、カリフォルニア州では、州内のすべての学校に生理用品の無料配布を義務づける法案が可決された。

この運動は最高潮の盛り上がりを見せており、生理用品の無料化、課税廃止、原材料の開示を求める140の法案が37の州で審議にかけられている。

私たち1人1人には、この大きな変化を社会や家庭のなかで推し進める責任が課せられている。シュトラウスフェルドが設立した『Period Law』に寄付をするのも、この運動を支持する手段の1つ。『#HappyPeriod』は黒人女性に対する生理教育を行っており、寄付金は生理貧困の撲滅に使われる。そして「身の回りの男性にも話してください!」とシュトラウスフェルド。「男性にも、生理の仕組みと生理が重要であるワケを理解してもらいましょう」

female reproductive system and hands
pepifoto//Getty Images

アメリカの生理史上重要な出来事

1870年代:生理用品の広告が初めて大手の新聞に出る。どんな商品? サスペンダーに挟まれたリユーザブルの布製ナプキン。

1919年:『Kotex』が使い捨てナプキンを発売。ナプキンのズレを防ぐ変な紐やハーネスがなくなった。

1931年:アール・ハースがタンポンを開発。ガードルード・テンドリックはハースから特許権を買い取って、『Tampax』(タンポンの商品名であり社名でもある)を生み出した。

1970年:児童文学作家ジュディ・ブルームの『Are You There God? It’s Me, Margaret/神さま、わたしマーガレットです』が出版される。アメリカの女の子の思春期と生理を率直に描いた初めての本。

1972年:放送事業者協会が、ラジオとテレビを使用した生理用品の宣伝禁止令を解除。

1978年:フェミニズム運動のパイオニア、グロリア・スタイネムの風刺エッセイ『If Men Could Menstruate』を『Ms.』誌が発表。男性に生理が来たら、男性はそれを利用して女性に対する優位性を築き続けるという話。

2010年代:新しい消費者意識が市販の生理用品革命に火をつける。『Cora』や『Lola』などの企業がオーガニックの生理用品を消費者の自宅に届けるサービスを開始した。

2016年:『Flex』が月経ディスクの販売を開始。サニタリーショーツ以来、数十年ぶりに発売された画期的な商品だった(月経カップは2000年代に入ってから人気が出たけれど、開発されたのは1860年代)。

2019年:アンドロイドとiOSのスマートフォンに生理の絵文字(赤い雫)が登場。これでまた少し、生理の話がしやすくなった。

2020年:生理用品の購入費を医療費とするCARES法が可決される。これによりアメリカ国民は、非課税の医療貯蓄口座とフレキシブル支出口座の資金で生理用品を購入できるようになった。

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Amelia Harnish Translation: Ai Igamoto