イライラして、ニキビができて、お腹が痛くなって。女性だから、という理由で毎月やって来る生理。どうしてこんな思いをしなきゃいけないんだろう? 2019年に同性のパートナーと暮らしていることを公表し、LGBTQ当事者として社会を動かすために声をあげるサッカー選手・下山田志帆さん。生理を受け入れられるようになるまでは、かなり時間を要したそう。
「学生の頃、生理は女性の象徴ってイメージを持っていました。学校の性教育のなかで学ぶ生理は、“いつか子どもを産むため”。自分は妊娠や出産はしないと思っているし、望んでいないのに、どうして自分にとって意味のない生理に苦しめられなきゃいけないの、とイラついたこともありました」
生理がくる自分を受け入れられず、本気で止めようと考えていたことも。本来、月経の発来(月経が来ること)には17%以上、正常な月経周期を維持するには22%以上が必要な最小体脂肪率だと言われている(※)。下山田さんは運動量を増やし、食事制限をすることで、数カ月にわたって意図的に生理を止めた。
「やっと生理が来なくなったとき、個人的にはすごくうれしかったんです。でもそのあと疲労骨折をして、サッカーに支障が出てしまいました。体脂肪率が元に戻り、数カ月ぶりに生理が来たときは、これまでにないくらいお腹が痛くなって。そういう経験から、スポーツ選手としてきちんと体と向き合わなきゃ、とマインドが変わりました」
下山田さんが考えたのは、「いかにして、少しもうれしくない生理と、自分が納得した状態で向き合っていくか」。自身の体を否定するのではなく、付き合い方を変えようとしたのは、これが初めてではないそう。「かわいい」より「かっこいい」と見られたいのに、中学生になると腰回りが太くなったり、丸みを帯びたり、曲線的になっていく体がどうしても好きになれなかった。そんななかでもやはり、自分の体と心を肯定する方法を模索してきた。
「腰回りが太く見えないズボンを選ぶとか、隠す行為も自分のためには必要だと思っています。わたしの場合、女性の体をしている自分をすべてさらけだして好きだとは言えない。でも、コンプレックスがある事実を認めた上で、自分が望む体の表現を選択できているのであれば、好きになれる。そういうボディポジティブさもあっていいですよね」
選択肢を増やすことで、自分と向き合うきっかけを
生理になれば、ドラッグストアに陳列された紙ナプキンを購入する。これが生理時の“当たり前”と思って過ごしてきた人も多いはず。近年では、月経カップや経血を吸収するパンツなど、さまざまな生理用品が出現し選択の幅は広がってきている。しかし、“既存の概念に縛られない選択を増やす”という点でまだできることがある、と下山田さんは仲間と新しいプロダクトをスタートさせた。
「生理用品をかっこいいと思ったことはありますか。わたしたちはそこを突き詰めたい。『これを履いてる自分、かっこいいじゃん』と思いながら履いてもらえる吸収型ボクサーパンツ『OPT』を開発しました」
このボクサーパンツは、アスリート554人の声から生まれたOPTの第一弾商品。2021年4月5日から5 月17日までの期間にクラウドファンディングを行い、開始17時間で目標金額である100万円を達成。トータルで798人の人から支援を受け、617%の目標達成率となった。この時に販売したショーツは2021秋に完売。そこで2022年には吸収部分をバージョンアップさせた『レギュラーサイズ』・ユースアスリートも着用できる『スモールサイズ』、生理がない日もOPTのパンツを着用できる『吸収なしタイプのボクサーパンツ』の3展開で再販売することとなった。
汗をたくさん掻くうえに、ナプキンを取り替えるタイミングが難しいアスリート。ナプキン自体を買うことに抵抗がある人。「かわいい」じゃなくて「かっこいい」が好きな人。下山田さんはそうした人たちの声を拾い、プロダクトを通して行動の選択肢を広げていく活動を意欲的に進めている。多くの人が生理と、自分の体と、ポジティブに向き合うタッチポイントを下山田さんはこれからもつくっていく。
※この記事は2021/1/30に公開し、一部加筆をして20228/26に再公開しました。
下山田志帆(しもやまだ しほ)
Twitter / note / Rebolt Inc.
スポーツファッション・サステナブルの記事を担当。山梨県の富士河口湖町へ移住し、オンラインを駆使して取材活動を行う。フェミニズムや環境問題などの時事ネタやニュース、人を掘るのが得意。 2020年までウィメンズヘルス編集部に在籍。