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心に効く『感情日記』の効果的な書き方【臨床心理士が解説】

書き出すことで、心身の健康が保てるって本当?

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young woman writing in diary
Leonardo De La Cuesta//Getty Images

最近では、メンタルヘルスのケアのひとつとして注目されている、『感情日記』。心にも体にも両方に良い効果があると言われている感情日記とは何か、そして効果的な書き方について、心の専門家である臨床心理士が解説します。

感情日記とは?

close up view of a southeast asian man writing on a journal
Karl Tapales//Getty Images

感情日記は、思っていることを書き出すことによって頭の中を整理し、ストレスを減らす、気持ちを安定させるというセルフケアツールです。

感情日記は、メンタルヘルスへの効果に加え、何と疾患にも一定の効果をあげているのだとか。精神科医の最上悠氏(※1)によると、欧米で行われた研究で、高血圧の人に、ストレスになっている日常の出来事やそれに伴って起きる感情についての日記を書き続けてもらうという実験を行ったところ、血圧の低下がみられたとのこと。また別の研究では、慢性痛を持っている患者に、怒りの感情にフォーカスして日記を書き出してもらうという実験をしたところ、痛みが軽減する、また痛みによって起きている抑うつ気分が改善したという結果が。最上氏によると、どちらの実験にも共通することは、感情日記を書くことによって、心の奥底にしまっていた感情に触れ、解放されることのよって精神的なストレスが和らいだという点であるとのこと。

ストレスが軽減すると、自律神経系や免疫系などのバランスが回復し、病気や体の不調の改善につながっていくので、私たちの中にある『感情』といかに付き合っていくのかが大切であると言えるでしょう。そのツールとして役立つのが感情日記なのです。

感情日記がもたらす効果とは?

woman at home reading book and drinking coffee
Anastasiia Krivenok//Getty Images

・カタルシス効果を得られる
カタルシス効果とは、心理学の中では『浄化』という意味合いで使われる言葉で、ネガティブな感情を何らかの形で発散すると苦痛がゆるみ、安心感を得られる現象のことを指します。怒りたい気持ちを抑える、言いたいことを言わない、周囲の人に気を使いすぎるなど、自分の気持ちを抑えるタイプの人は、感情を表現する、ストレスを発散するといったことが難しくなりがちです。そんな時に、感情日記に自分の気持ちを書き出すことで、気持ちがスッと軽くなることがあります。

・自分の思考のクセを知る

頭の中にあるものを紙に書き出して見える形にすることで、自分の中にある思考のクセや、それに伴って起きる感情や行動が見えやすくなります。そして、見えてきたものに対してもう少し掘り下げていくと、これまでとは違う新しい考え方や行動を選ぶことにも役立つかも。

・幸せを感じやすくなる

海外の研究では、感情日記にポジティブな内容を書くことを習慣にしたところ、よく眠れるようになる、運動習慣が身に付く、身体的な不調が減るといったことに加えて、主観的幸福感(ウェルビーイング)が高まるということが明らかになっています(※2)。

・心の安定につながる

ワーキングメモリとは、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力のこと。私たちが瞬時に適切な判断を行うことができるのは、ワーキングメモリのおかげなのです。ワーキングメモリの容量が一杯になると、集中力が続かなかったり、感情の切り替えが上手くいかないなどの困り感が生まれやすくなります。海外で、学生たちに7週間にわたって自分の考えや感情を書いてもらうという研究を行ったところ、ワーキングメモリの容量がアップし、心の状態が安定したり、感情のコントロールが上手くなるという結果がみられた(※3)とのこと。ワーキングメモリは無限に溜められるものではないので、書き出すことでこまめに容量を開けておくことに役立ちます。

ネガティブな内容でも効果あり!

sleepy overweight young woman with flowing hair using phone on bed, close face palm top view
Natalia Lebedinskaia//Getty Images

感情日記に書く内容は、ポジティブな内容でないといけないと思いがちですが、実はネガティブな内容を書くことも効果があると様々な研究で明らかに。ネガティブな内容を記述した直後は、ネガティブな出来事を思い出すためネガティブ感情が強まりますが、書いてしばらくした後は、感情が鎮静化する(※4)、医療機関への受診の回数や、免疫機能の向上にも役立つ(※5・6)とされています。

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心身の健康に効果的な、感情日記の書き方

a young woman taking a break from technology
MundusImages//Getty Images

・自分自身のために書く
誰かに見せるものではないので、他人の気持ちや都合を気にせず、思いのままに書きましょう。また、自分のために書くものなので、誤字脱字や文章の完成度などは気にせずに、気軽に書きましょう。取り組み方も『ノートに書かなければいけない』といった決まりはないので、スマホやPCに入力する方がやりやすい人は、そちらで取り組んでも良いでしょう。

・出来事を詳しくよりも、その時に感じた気持ちを書く

1日の出来事をたくさん書くというよりは、その日のうちで1つでもいいので、心が動いたと思う出来事を選びましょう。そして、その出来事を目の前にした時にどんなことを考えたのか、どんな感情が浮かんできたのかについても書けると良いてみましょう。

・感情のレパートリーを覚えておこう

感情日記のポイントは、自分の感じた気持ち(感情)を書き出すことや、その気持ちに名前をつけて理解することにあります。いきなり「感情は?」と聞かれても難しいかと思いますので、いくつかレパートリーを覚えておくと良いと思います。感情を表す言葉として、以下のようなものがありますので一部ご紹介しますね。

《感情を表す言葉》
安心、不安、期待、恐怖、興奮、苦しみ、焦り、冷静、満足、不満、悲しみ、嫌悪、親近感、虚しさ、困惑、緊張、リラックス、恥、軽蔑、嫉妬、罪悪感、期待、感動、不思議 など

・毎日書けなくてもいい

日記を始める時って、「毎日書くぞ!」という気持ちになりやすいと思いますが、その後続けられずに、やめてしまうといった経験はありませんか? 大事なのは細く長くでも続けていくことです。逆に毎日書く必要はなく、週に1回程度でもいいと思いますし、書けない時は思い切ってお休みし、また気持ちが乗ってきたら書くくらいの気軽さで捉えてみてはいかがでしょうか。

・安心を感じられる場所で行う

感情日記を書く際には、誰かに邪魔をされることなくゆっくりじっくりと自分自身のことを考えられる環境づくりも必要だと思います。時間や場所はもちろん、『〇〇の後に行う』と言った儀式的な感じで設定するのも良いと思います。

・考えや感情の正体を掘り下げてみる

これは応用編になりますが、もし違和感や抵抗感がなければ、書いた日記を読み返してみたり、あるいは「こういうことを考えたのはなぜだろう?」「この感情の正体はどうからきているんだろう?」など、掘り下げて考えてみるという使い方も良いと思います。その時には見えてこなかった気づきや、新たな視点が生まれるかもしれませんよ。

1人で難しい時は、専門家と一緒に行うのもおすすめ

a young woman taking a break from technology
MundusImages//Getty Images

感情日記をつけることによって、自分の心の奥底に触れたり、そこに潜む感情と出会うことがあります。それに触れて戸惑ったり、落ち込んだりすることもあると思いますが、慣れていないうちは自然なことです。続けていく中で少しずつ自分の感情や思考と距離が生まれ、客観的にみることができるようになります。しかし、出来事のインパクトや心の傷の深さによっては、感情日記を書くことで辛い気持ちが強くなったり、具合が悪くなるということが起きる可能性があります。そんな時は無理せずに筆を取るのをやめましょう。そして、可能であれば心療内科や精神科などで、専門家と一緒に安心安全を感じながらお話ししていくことをおすすめします。感情日記の使い方も人それぞれ合う形があるので、『こうせねばいけない』に囚われず、ご自分に合う使い方を見つけていけると良いですね。

《参考文献》
※1 最上悠『日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる「感情日記」のつけ方』 CCCメディアハウス(2018)
※2 Robert A. Emmons, Muccullough E. Michael Conting blessings versus burdens: An experimental inverstigation of grantitude and subjective well-being in daily life. Journal of personality and social psychology 84: p377-389
※3 Klein, Kitty and Adriel Boals, “Expressive writing can increase working memory capacity,” Journal of Experimental Psychology General, Vol. 130, No. 3, p. 520-533. (2001)
※4 遠藤寛子 怒り体験の筆記が精神的健康に及ぼす影響,感情心理学研究 17 (1) p3-11 (2013)
※5 佐藤徳 筆記開示はなぜ効くのか 同一体験の継続的な筆記による馴化と認知的再体制化の促進 感情心理学研究 19 (3)p71-80
※6 Pennebaker W James, Klihr Beall Sandra Confronting a traumatic event: Toward an understanding of inhibition and desease. Journal of abnormal psychology 95: p274-281. (1986)

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南 舞
ライター

臨床心理士。岩手県出身。多感な思春期時代に臨床心理学の存在を知り、カウンセラーになることを決意。大学と大学院にて臨床心理学を専攻し、卒業後「臨床心理士」を取得。学生時代に趣味で始めたヨガだったが、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングと近いものを感じ、ヨガ講師になることを決意。現在は臨床心理士としてカウンセリングをする傍ら、ヨガ講師としても活動している。   公式HP: mai-minami.com Instagram: @maiminami831  

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