退屈によるストレス「ボアアウト」のサインと対策
毎日が単調な人は、これを読んで。
病気ではないけれど、世界保健機関(WHO)が正式に「職業的な現象」として認める「バーンアウト」(燃え尽き症候群)は、精神的にいっぱいな感じ、消耗感、頭のもや、モチベーション不足を特徴とする。周囲の期待に応えながら、仕事漬けのストレスフルな社会で生きる現代人の苦労を適切に表す言葉。その一方で、あまり知られていないのが「ボアアウト」。症状はバーンアウトに似ているけれど、原因は正反対で、仕事の刺激ややりがいがないことに起因する。大したことには思えないかもしれないけれど、ボアアウトは従業員のウェルビーイングに多大な影響を与えかねない。パンデミックで多くの人(特に接客関係)の仕事量が減ったいま、この問題を知っておくのは非常に大事。今回はイギリス版ウィメンズヘルスより、「ボアアウト」についてご紹介。
ボアアウトとは?
ボアアウトという言葉は、スイスのビジネスコンサルタント、ピーター・ワルデルとフィリップ・ロスリンが2007年に生み出した。そして、2016年、フランスの香水メーカー『Interparfums』が従業員に対して40,000ユーロ(約520万円)の支払いを命じられたことをきっかけに広く知られるようになる。フレデリック・デスナルドは、年収80,000ユーロ(約1千万円)の仕事を4年間続けても、単調な仕事しか与えられなかったことを理由に同メーカーを労働審判にかけた。大口の販売契約が破棄されてから仕事量が劇的に減り、“職業ゾンビ”にならざるを得なかったという彼の訴えに対し、パリ高等裁判所は、デスナルドの仕事量の減少と、その結果として生じたボアアウトが“モラルハラスメント”に値するという判決を下した。
ボアアウトが増えている理由
キーワーカーはともかく、デスクワークをする人の働き方はパンデミックで一変した。
「みなさんの働き方は、この1年半で大きく変わったはずです」と話すのは、医療サービス『Bupa UK』に所属するメンタルヘルスアドバイザーのファトマタ・カマラ。
「リモートワーク、強制休暇、チーム縮小などに順応することを余儀なくされたわけですから、メンタルヘルスに影響が出て当然です」
毎日の通勤は過去の話で、ロックダウン中はリモートワークが主流となった。その一方で、多くの人が強制的に休暇を取らされたり、チームの縮小や仕事量の減少で新しいスケジュールに適応せざるを得なくなったり。会社をクビになった人もいれば、安定していたフリーランスの受注件数が減ってしまった人もいる。
これでは仕事が楽しくなくなり、ストレスが増幅しても仕方ない。それに加えて、社会交流も突然減った。ZOOMは便利なツールだけれど、対面の感覚とはやっぱり違う。
ボアアウトの原因
ボアアウトの根本にあるのは、バーンアウトと一緒で“仕事”。カマラによると、違うのは“仕事量”。
「仕事量が多すぎると(先行きが不透明な時期は特に)頑張りすぎてバーンアウトになることがあります。一方のボアアウトでは、仕事が単調だったり簡単すぎたりで、自分の能力を十分に出し切れていない感じがします」
ボアアウトには仕事環境も大きく関係している。カマラによると、同僚とのやりとりがほとんどない環境ではボアアウトになりやすい。
ボアアウトのサイン
症状が似ているので勘違いされやすいけれど、バーンアウンととボアアウトは、仕事にまつわる正反対の問題に起因する。バーンアウトにおける問題は刺激がありすぎること。ボアアウトにおける問題は刺激がなさすぎること。
カマラがいう、ボアアウトの症状を見ていこう。
・精神的にいっぱいな感じ
・モチベーション低下
・消耗感
これに加えて「不安、悲しみ、疲労を感じることもあるでしょう」とカマラ。
ボアアウトの長期的な影響
ボアアウトのコンセプト自体は大したことに思えないかもしれないけれど、その影響は間違いなく深刻。7,000名の公務員を24年間にわたり追跡した研究結果は、仕事で“いつも”暇をしていると、寿命が縮む可能性を示している。
これは、仕事から得る刺激が足りないと、生活の他の分野で刺激を得ようとして、飲酒や薬物に頼ったり、食生活が不健康になったり、危険なアクティビティに手を出したりすることがあるから。
ボアアウトの乗り越え方
このような症状に覚えがあり、自分がボアアウトの渦中にいると思うなら無視は禁物。残念ながら、パンデミックに起因する仕事環境の変化は、しばらく続くかもしれない。カマラの5つのアドバイスに従って、ボアアウトに対処しよう。
1.沈黙を破る
どんな問題も、親しい人に話してみることが大切。友達、恋人、同僚に打ち明けるのは、自分の気持ちを整理して、いつからボアアウトを感じていたのか、プロの助けが必要かなどを考える機会になる。
疲労やモチベーション不足の原因が仕事でも、その問題を解決するために仕事をやめる必要はない。その代わり、上司か人事部と落ち着いて話し合い、仕事量の調節が可能かどうか、新しい役割がもらえるかどうかを確認するのは、ボアアウトの解消に役立つ。
恋愛においてもボアアウトは起こり得るので、その場合にはパートナーに打ち明けることが大切。仕事環境と同様、パンデミックで恋愛も大きく変わった。だから、相手を批判しないで。夜のデートはできないかもしれないけれど、一緒に時間を楽しむ方法や新しいことに挑戦する機会はいくらでもある。仕事のあとは、深夜まで動画を観るのではなく、日時を決めて、ディナーやおしゃべりを楽しんで。
ボアアウトに苦しんでいるのなら、カウンセラーなどの専門家に相談し、ボアアウトの原因を理解して、状況を改善するためのステップを特定することも大切。
2.ワークライフバランスを優先する
リモートワークではモチベーションを失いやすい。仕事量や同僚と関わる機会が減った人もいるかもしれない。ボアアウトの原因が何であれ、ヘルシーなワークライフバランスを維持するのは非常に大事。場合によっては、昇進よりもリラックスタイムのほうを優先する必要があるかもしれない。
就業時間中は仕事に集中して、定期的に短い休憩を取り、電子機器から離れること。ランチタイムは十分に確保して。なかなかリズムがつかめないなら、25分間の仕事タイムと5分間の休憩タイムを交互に取る“ポモドーロテクニック”を試してみよう。
家の中で1日過ごし、起きてからずっとパソコンに向かう習慣はすぐにつく。でも、仕事を始める前やランチタイムに散歩をする習慣もつけてみて。朝一で読書やコーヒー、紅茶を楽しめるなら、15分早起きする価値もある。
平日は、会社にいるときと同じように達成可能な小さな目標を設定し、しっかり定時で上がること。夜の目標を決めてもいい。親友に電話をしたり、ヨガレッスンを受けたりして、仕事とプライベートの境目をハッキリさせよう。
何事もバランスが大事。仕事が暇で得をすることはある。でも、退屈な状態が長く続くと、ストレスや不安が増幅するし、自分の存在意義が分からなくなってくる。
3.目的を考える
会社にいても家にいても目的意識や自己意識を失うのは簡単で、そうなると、あっという間に気分が落ち込む。特に、長年の努力で築いてきたキャリアがパンデミックの影響を受ければ、不安や疲労を感じて当たり前。
何年も仕事を生きがいにしてきた人にとっては難しいかもしれないし、慣れるのに時間がかかるかもしれない。けれど、自分の人生を本音で生きて、人にどう思われるかを気にするのはやめよう。
自分が好きになれることや楽しめることにフォーカスし、そのアクティビティを日常的に優先しよう。本を書きたい、コーディングやキャンドル作りを学びたいと思っていたなら、いまがチャンス。でも、自分にプレッシャーをかけすぎないで。それが新しい副業になる可能性はあるけれど、現状が変わるのを待ちながら、空いた時間を前向きに使い、充実させる方法として捉えるといい。
自分の得意分野や能力に自信がないときは、過去に自分が達成したことを書き出して。自分の目的を思い出し、自分がハッピーになれる何かを見つけるのに役立つはず。
4.モチベーションの源を見つける
いまこそ自分の目標を見直すとき。自分が頑張りたいことを1つずつ考えて、それに対する自分の反応を見てみよう。神経が張り詰める感じがしたら、その目標はひとまず脇に置いておき、気楽に取り組める目標にフォーカスする。
その目標を達成するために必要なステップを1つずつ書いてみて、達成したステップにチェックを入れる。「自分にやさしく」が合言葉。
5.新しい挑戦をする
新しいスキルの習得やフィットネスクラスなど、新しいことに挑戦すれば気分が良くなり、生産性とモチベーションが高くなる。ボランティアは、人助けをしながら不安や憂鬱な気分を払しょくするのに効果的。インターネットで調べれば、ソーシャルディスタンスを守りながら近場で取り組めるチャレンジの機会がたくさんあるはず。
充足感は、ボアアウトの渦中にあることを認識し、生活に必要な修正を加えることでしか得られない。決して楽なことではないから、自分にプレッシャーをかけすぎず、1歩ずつ着実に進んでいこう。
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。
Text: 記載なし Translation: Ai Igamoto