その理由は迷走神経にある。
ストレスや落ち着きは、神経生物学の仕組みを通して伝染するため、自分が人にうつすこともあれば、人からもらうこともある。これは十分に実証されてきた事実であり、神経系とストレスホルモンの量が人間同士で共振するからだという。そして迷走神経は、このストレス伝染の主役の1つ。今回はオーストラリア版ウィメンズヘルスより、迷走神経について詳しく説明していこう。
迷走神経は脳幹から結腸まで走る双方向コミュニケーターで、脊椎と同じくらいの長さがある。心と体をつなぐのは、まさにこの神経といっていい。ストレス活性のレベルに応じて自律神経系の状態は変化する。それに応じて迷走神経は、感じ方や考え方、行動を変化させるという。具体的には、不安の度合い、鼓動の速さ、消化、免疫系、内分泌(ホルモン)系だけでなく、他の人との関わり方まで変えてしまうのだとか。
私たち1人ひとりが持つ“ソーシャル・エンゲージメント・システム”(社会参加・交流に関するシステム)は、心臓、顔の筋肉(発話能力に必要な筋肉)、そして中耳の筋肉をつなぐ迷走神経の枝によって作られている。このソーシャル・エンゲージメント・システムこそ、私たちの神経系への影響を大きく受けてしまう理由。このシステムはストレス活性のレベルに応じて、私たちの見方、聴き方、話し方をコントロールする。私たちは他人と常にフィードバック・ループを形成している。他人の声、視線、表情、ジェスチャーはすべて私たちに影響を与え、また、自分の声、視線、表情、ジェスチャーは他人に影響を与えている。
迷走神経が活性化している人は、コントロールが効いて落ち着いた状態にいる。周囲の人が同じ状態であれば、その人との間で安全シグナルが送受信される。この共振は両者の神経系をつなぎ、同時制御して、幸福ホルモンを分泌させる。ソーシャル・エンゲージメント・システムの中で同時制御が働いているときは、身体的、感情的、心理的な健康状態が全体的に向上する。
ソーシャル・エンゲージメント・システムの中にいる人は、声のリズムとピッチの振動が高く、話すときの表情が豊か。これが私たちの神経系に「このつながりは安全」というシグナルを送る。ソーシャル・エンゲージメント・システムの中にいるときは、中耳の筋肉が中周波音をうまく検知できる状態にあるので、コミュニケーションが最適化される。相互作用と共感力が高い状態でもあるため、会話のキャッチボールができ、思いやりも双方向。この状態なら、相手の視点で物事を考えるのも難しくない。
アイコンタクトや歓迎的なジェスチャーをしたり、自分を相手の経験に同調させたりすると、“迷走ブレーキ”と呼ばれる迷走神経の枝が活発になる。この枝は心臓のペースメーカー(洞房結節)につながっており、心拍数を下げ、生理機能を制御して、ストレスを減らす。だから不安を感じているときは、ソーシャル・エンゲージメント・システムの中にいる人のそばにいるだけで、自分もソーシャル・エンゲージメント・システムの中に戻りやすくなる。ストレス活性レベルが高い人は、ソーシャル・エンゲージメント・システムを出て交感神経系に入っている状態で、迷走神経の働きが抑制されている。
発話行動に必要な筋肉が変化するので声が単調になり、コミュニケーションの最中も顔に表情がないため、私たちの脳内の生存をつかさどる領域に「何かがおかしい」というシグナルが送られる。その人のジェスチャーやボディランゲージは、私たちの脳の共振回路にあるミラーニューロンを興奮させる。「何かがおかしい」というシグナルが体を通って、私たちを不安にしたり、敏感にしたり、この人から離れなければ、という気持ちにさせたりする。迷走ブレーキがかからなくなるので心拍数が上昇し、コルチゾールが分泌されるため、落ち着いていられなくなり、自分自信を守ろうとする。
交感神経系が活性化すると中耳の筋肉が変化するため、相手には私たちの声すら聞こえない。この状態で意見の衝突や言い争いが起こると、相手に耳を傾けるのが難しくなり、会話のキャッチボールや調和(相手に分かってもらえているという感覚)が失われるそう。また、その人とのつながりが安全に感じられないと交感神経系が反応するため、会話を中断したり、相手を批判したり、責めたり、反論したり、相手の気を引いたりといった行動に出る。返答しない、黙る、自分を孤立させる、距離を置く、引きこもるといったシャットダウン反応が出ることも。
私たちがソーシャル・エンゲージメント・システムの中に戻り、コミュニケーションが最適化されない限り、相互作用や調和は失われたまま。迷走神経が神経系を再び制御することで、私たちは落ち着きを取り戻す。高度な相互作用を伴う健全な人間関係は、神経系の再建を促す。会話のキャッチボールや双方向の思いやりは、神経系の再建に役立つつながりと同時制御を形成するので、つらいときにも安心感と所属感を与えてくれる。要するに、心と体の健康は周囲の人で良くも悪くもなるということ。
※この記事は、オーストラリア版ウィメンズヘルスから翻訳されました。
Text: Jessica Maguire Translation: Ai Igamoto
関連記事: ストレスは運動で解消するべき4つの理由肌がかゆいのはストレスやうつのせいかもしれない?
専門家が解説:コルチゾール値が高くなると体重が増える理由
ストレスが溜まっているときにオススメのエクササイズは?
「何であの子ばかり……許せない」苦しい嫉妬心への対処法とは【臨床心理士が解説】
【自律神経ってなに? 整える方法】つらい冷え性・原因不明のイライラ・しんどい低気圧不調に
わたしのもやもやを手放す5つの解放ガイド
定期的な運動が「痛みへの耐性」を高める?新研究結果が示唆
マネされた時のモヤモヤ、どうしたらいい?【臨床心理士・南舞さんのあるある!ココロの相談室】
「ウソをつくこと」は心と体に悪い?行動科学者が教える5つの真実
実家に帰るとモヤモヤ……「帰省ストレス」の対処法【臨床心理士・南舞さんのあるある!ココロの相談室】
プチアル中⁉️「つい飲みたくなる習慣」対処法は?【臨床心理士・南舞さんのあるある!ココロの相談室】
ストレスとジャンクフード、脳に「負の連鎖」をもたらしていた!?
ストレスを軽減するために知っておくべき「ストレスの輪」ってなに?