インスタグラムのストーリーズには今日も、汗だくで筋トレをする人の動画やタンパク質たっぷりの料理の動画が溢れている。“スキニーではなくストロング”をよしとする傾向はどうやらいまだ健在で、運動や食事に関する私たちの選択に影響を及ぼしているけれど、とあるデータは、その裏にある不穏な現状を映し出す。

イギリス版ウィメンズヘルスが実施したアンケート調査では、読者の90%が体脂肪を減らしたいと思っており、英国に住む女性の約3分の1は体重を6kg以上減らしたいと思っていることが分かった。この数字は、脂肪を“ごっそり”削ぎ落したいという願望の表れ。でも、このような目標が私たちの将来に与える影響は計り知れない。そして、これには“利用可能エネルギー”というコンセプトが関係している。イギリス版ウィメンズヘルスから詳しく見ていこう。

体脂肪を減らしすぎると、生殖機能が閉経後の状態に

ここで言う影響とは、私たちの受胎能力と生理周期が被る影響。「エクササイズをしている人は、それだけで“健康的”と褒めそやされます」と話すのは、ライターのフランチェスカ・ベイカー氏。「実際は健康じゃなくてもです」

ベイカー氏は、連日の飲み会とジャンクフードの悪影響を和らげる目的で、大学時代にランニングを開始した。でも、それは毎日必ずジムに行って極端な食事制限をするという不健康な生活のはじまりだった。「ちょうどその頃に低用量ピルの服用をやめたので、生理が来なくなったのはそのせいだろうと自分に言い聞かせていましたね。本当は、“健康”になりたいという欲求が度を超えていたからなのに」

もちろん、ベイカー氏の生理が止まったのはピルをやめたからではなく、スポーツにおける相対的エネルギー不足(通称RED-S/レッズ)のせいだった。「RED-Sは、あなたが食事から摂取するエネルギー量と、体内の“ハウスキーピング”作業と運動で消費されるエネルギー量の間に差がある状態を指す言葉です」と説明するのは、運動内分泌学者のニッキー・ケイ博士。充電が残り9%のスマホと同じで、体も充電を怠れば省エネモードに入り、自動機能(女性の場合は生理)がオフになる。

当然ながら人間はiPhoneほど一様ではないので、このような自動機能が“どの段階で”遅れたり止まったりするかは人によって異なる。同じトレーニングと体脂肪率でも、生理に問題が出る人とまったく出ない人がいる。

「極端なトレーニングやカロリー制限で体脂肪を大幅に減らそうとすると、体はあなたがストレス下にあると認識し、いまは生殖に向かない時期と判断します」と説明するのは、米南カリフォルニア大学生殖内分泌学・臨床不妊学特別研究員のメギー・スミス博士。「そうすると、脳から卵巣に送られる信号(視床下部-下垂体-卵巣軸)がシャットダウンして、(排卵を誘発する)黄体形成ホルモンが作られなくなります。そして卵巣は、卵子を放出することもエストロゲンとプロゲステロンを作ることもしなくなります」

体重過多や肥満になると、エストロゲンの分泌量が増えすぎて生殖機能が混乱するのは間違いない。でも、逆に体重や体脂肪を減らしすぎると、「生殖機能が閉経後の状態になってしまいます」とスミス博士は警告する。

RED-Sのリスクが高いのは非アスリートの女性たち

では、受胎能力に深刻な影響を与えかねないと言われながらも、RED-Sが話題に上らないのはなぜだろう。RED-Sはつい最近まで、“女性アスリートの三主徴”(利用可能エネルギーの不足、無月経、骨粗しょう症)として知られていた。エネルギー不足を無月経と骨粗しょう症に紐づけることで、不可解なデータ(大学の女性ダンサーの69%と女性長距離ランナーの65%に生理不順が見られる理由など)が解明されたのは確か。でも、三主徴が実は3つじゃないことに気付いた国際オリンピック委員会(IOC)が2014年に呼び名を変えた。

エネルギー不足は代謝を遅らせ、免疫力を弱める代わりに疲労感を強くして、心肺機能と腸に悪影響を及ぼすことも分かっている。2017年7月には、スポーツ医学専門誌『British Journal Of Sports Medicine』が栄養不足の男性アスリートのRED-Sに焦点を当てた米バージニア大学の研究結果を掲載した。でも、ケイ博士はRED-Sが“非アスリート”の女性に与える影響を解明することが最大の急務と考えている。

「一流のアスリートはコーチやチームドクターの指導を受けています。それよりもRED-Sのリスクが高いのは、専門家のサポートを受けることなく、運動や食事で体脂肪を極端に減らそうとしているアマチュアのスポーツ選手や運動好きな人たちです」とケイ博士。「例えばダンサー。そして意欲的な学生も、サポート体制が充実した企業に就職するまではリスクが高いです」

子供の頃から体操が大好きだったケイ博士は、バレエ教室と並行して週に4回トレーニングしていたこともあり、体脂肪が驚くほど低かった。その結果、ケイ博士に最初の生理が訪れたのは(排卵促進剤の助けを借りて)32歳で次男を産んだあとだった。「妊娠に関するアドバイスが得られる病院で働いていたのがラッキーでした。当時の私に医学的な知識がなければ、いま頃どうなっていたか分かりません。だから女性はRED-Sの知識を身に付けるべきなのです」

女性が妊娠するためには、ある程度の体脂肪が必要

スポーツ栄養士のローラ・クラーク氏によると、彼女の経験上、最もRED-Sになりやすいのは妊娠と出産がまだまだ先のことだと思っている20代の女性たち。「彼女たちは週に6~7回、ときには1日で2回もジムへ行きます。トレーニングが激しい上に、そのトレーニングと身体機能に必要なエネルギーと栄養が不足すれば、体脂肪が極端に減って深刻な問題が生じます」

スミス博士に言わせると、カロリー制限は激しいトレーニングの何倍も危険。「栄養性不妊の神経内分泌学」というタイトルの論文によれば、カロリーの摂取量がたった1カ月大幅に減るだけで月経機能が狂ってしまうこともある。

そうは言っても、体組成計のBMIが健康の範囲内なら大丈夫、なんでしょう? 大丈夫と言いたい気持ちは山々だけれど、従来の測定方法の有効性に関しては専門家の意見が分かれている。いまは亡き生物学者のローズ・フリッシュ博士は、体重だけで健康状態を評価すると誤解を招く可能性があると言っていた。筋肉細胞は約80%が水分なので脂肪細胞より重い(脂肪細胞の水分含有量は5~10%)。そのためアスリートには、生理が来ないにもかからわず、体重が“正常”の範囲内に収まる人が多かったのだ。クラーク氏によると、細胞の水分含有量は生理周期の影響を受けるため、体組成計を使っても生理周期のステージ次第で結果は変わる。

フリッシュ博士は、体脂肪の低さと不妊を初めて結び付け、女性が妊娠するためには体脂肪が最低でも17%なければならないと主張した。また、フリッシュ博士は、この脂肪が生殖機能のエネルギー源になることから、この脂肪に“性脂肪”という呼び名を付けた。この主張は、20~40歳の女性の健康的な体脂肪率は15~31%であるという英国看護組合ロイヤル・カレッジ・オブ・ナーシングのデータとも一致する。

このような理由から利用可能エネルギー(食事によるエネルギー摂取量と運動によるエネルギー消費量の差)は、ウェルネス業界の新しいキーワードになりつつある。「内分泌系に必要なエネルギーは除脂肪体重1kgあたり45kcalです」とケイ博士。「食事の質も大切です。お菓子とスイーツのカロリーでその数字を満たしているダンサーもいましたが、主要な食品群をカバーしていなかったので生理が来ないままでした」

体脂肪の減少で失われた生理は取り戻せる

RED-Sのリスクを自分なりに調べたいときは消去法を使うといい。「体重が安定していても、低用量ピルを飲んでいないのに生理が止まっている人や不順になっている人は、その状態を放置せず、病院へ行きましょう」とケイ博士。「医師はまず、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や甲状腺疾患といった他の可能性を排除してから、あなたの栄養状態をトレーニングの負荷と照らし合わせながら調べるはずです」

あなたの努力が行き過ぎていることを示すサインは、生理周期が乱れる前から現れることもある。英ヘルスクラブ『Third Space』ロンドンの人気パーソナルトレーナー、ルーク・ワーシントン氏によると、抜け毛(栄養不足のサイン)、体毛の増加(体が断熱材として柔らかい産毛の層を作る)、腸内のガスが原因の太鼓腹といった生理学的な変化が見られるときは要注意。

心理学的な警告サインにも注意して。「ジムに1日行けなかったくらいでいつまでもくよくよしたり、運動や作り置きを中心に予定を立てたり、セックスに興味がなくなったりするのは、体脂肪を落とすための努力が行き過ぎている可能性を示すサインです」とワーシントン氏。

でも、体脂肪の減少で失われた生理は取り戻すことが可能。受胎能力には、年齢や飲酒量、ストレスレベルといった多数の要素が関係している。スポーツ婦人科学者のマイケル・ドゥーリー医師によると、現時点で体重が少なすぎず、カロリー制限で体重を減らしていない人なら、他の基礎疾患がない限り妊娠する可能性が高い。ドゥーリー医師は、RED-Sのせいで卵巣から放出されなかった卵子が永遠に失われるのではなく、冷凍庫と同じような感覚で体内に保存される可能性を調べている。

正常な生理周期を取り戻すために難しい知識は要らない。RED-Sに関する国際オリンピック委員会の調査報告書によると、科学的な精査を受けて唯一有効と確認されたのは、高カロリーのサプリメント(この調査では1日1回300~600kcalの流動食が提供された)と1日1回の休養日をとることだった。ハードなトレーニングをしているときは、食事から“何を除くか”ではなく、食事に“何を付け足すか”を考えて。

普段の食事で「利用可能エネルギー」を確保するには

専門家のアドバイスに従って大切な受胎能力を維持しよう。

カロリーの摂取量を増やす

「1日の摂取カロリーが2000kcal未満で、持久力を必要とするスポーツをしている人は、エネルギー不足に陥る可能性が高くなります」と説明するのは、公認栄養カウンセラーのジョー・スコット=ダルグレイシュ氏。「1日2時間もトレーニングをしている人は、摂取カロリーが2250kcalを下回るとRED-Sのリスクが高くなります」

食べ物の質にこだわる

消費期限直前のしなびたアスパラと市場で買ったばかりの新鮮なアスパラを並べれば、前者が大したエネルギー源にならないことは一目瞭然。「健康的な食生活は、健康的な食材があって初めて成り立つものです」とドゥーリー医師。「腸内細菌のエサになる物を食べて、大切な腸内環境を整えましょう」

炭水化物を恐れない

タンパク質のことばかり考えて炭水化物を避けないで。「体にとって何よりも重要なのは燃料を確保することです」とスコット=ダルグレイシュ氏。「その燃料(糖質)が不足すると、体はタンパク質を糖に変換するので、タンパク質が筋肉の修復や増強に使われなくなってしまいます」。そのため、いつもより負荷の高いトレーニングをするときは、デンプンと糖質(フルーツと野菜を含む)の摂取量を増やすといいそう。

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Gemma Askham Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。