「生理周期が多少乱れるのは問題がないことが多いですが、問題なのは生理が3か月以上来ないときです。これを『無月経』といいます」と話すのは、産婦人科医の高尾美穂先生。今回は、通常の生理周期と無月経について高尾先生にお話を伺った。

(「」内、高尾美穂先生)

正常な生理周期の重要性

「生理は一般的に12~17歳に始まり50歳前後で終わります。生理周期が一定ということは、体がある程度正常に作動しているととらえられるでしょう。医学的には、生理周期は、生理が始まった日から、次の生理が始まった前の日までの間隔が25〜38日であれば、正常とされています。初潮(初経)を迎えて2~3年以上経っているのにこの周期が不規則なら、何かしら問題があるという体のサインです。不規則な生理周期は生理不順と呼ばれ、中でも、妊娠していないのに3カ月以上生理が止まっている状態を無月経と呼びます。基礎体温を記録して産婦人科を受診し、無月経の原因を確認しましょう。正常な生理周期は、排卵があり卵巣の働きに問題がないことを確認できるサインでもあるので、生理周期が正常範囲に収まっているかを確かめてください 」

生理不順の基準と原因

「生理の量が多すぎたり、反対に少なすぎたり、生理周期が39日以上(稀発月経)だったり、あるいは生理周期が24日より短かったり(頻発月経)。いずれも生理不順に該当し、無排卵または排卵の頻度が少ないことが原因で現れる症状と考えられています。生理不順の原因にはストレス、睡眠不足、無理なダイエットや過食などがあります。さらには多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん・PCOS)、甲状腺機能亢進症・低下症、骨盤や生殖器にできた腫瘍による場合もあります。中でも多嚢胞性卵巣症候群の発症率は妊娠可能な女性の5~10%にみられるので、生理周期が長い場合は特に、婦人科でのチェックをオススメします。またPCOSは脂質代謝異常、耐糖能異常を伴う恐れがあるため、心血管疾患や糖尿病の発症に影響を与えることもあります。その結果、ホルモンバランスの乱れをもたらし、子宮内膜増殖症、子宮内膜がんのリスクが高まるので、早期に把握することが何よりも重要です 」

多嚢胞性卵巣症候群とは?

「通常、女性の体では、排卵に向けて数十個の卵胞が育っていき、十分に成長して排卵されるのはそのうちの一個。ほかの卵胞は途中で成長が止まり、次第に小さくなっていきます。ところが、すべての卵胞の成長が止まってしまい、多くの小さな卵胞(嚢胞)が排卵されずに卵巣の中に止まってしまうのが多嚢胞性卵巣症候群です。排卵が起こらないので、生理も来ないわけです。多嚢胞性卵巣症候群は、男性ホルモン値が高いことも特徴のひとつで、毛が濃いという訴えもしばしば聞かれます。以下の3つの条件を満たすとこの病気と診断されます」

①生理不順や無月経などの月経異常がある
②経腟超音波検査で卵巣に小さな卵胞が10個以上見られる
③血液検査で、エストロゲンの値は正常なのに、男性ホルモンの値が高かったり、卵巣刺激ホルモンの値に異常がある

 

卵巣機能検査

「普通、卵巣の機能は30代半ばすぎから衰え始めることが多いのですが、必ずしもその年齢とは限りません。過労やストレス、飲酒、喫煙、不規則な睡眠など後天的な要因も大きく作用します。これは逆にいえば、普段から健康管理をしっかりすれば、卵巣機能が低下するスピードを遅らせられるという意味でもあります。卵巣は排卵が起きて、女性ホルモンが分泌される臓器であるだけでなく、女性の健康において重要な部分を占めています。卵巣機能が低下すると回復が難しいため、生理周期を把握し、不安があれば婦人科に相談しましょう。卵巣機能検査は確実な方法がありません。ただできることがあるとすれば、いくつかのホルモン検査がありますが、中でもAMH(Anti-Müllerian Hormone)検査、すなわち抗ミュラー管ホルモン検査が代表的です。生理周期とは関係なく、採血で数値を検査できる抗ミュラー管ホルモンは卵胞で分泌され、卵巣の予備能を測定できる客観的な指標です。ただし測定値にはばらつきがあることを知っておきましょう。また、卵巣機能異常のひとつ、多嚢胞性卵巣症候群は数値が上がり、閉経が近い時期でも正確な予測が不可能なため、解析をする時は生理の状態などを考慮し、超音波なども併せて行う必要があります 」

無月経の対策

「エネルギー不足による無月経は、まず、しっかりエネルギーを摂ることが大事です。婦人科受診で根本的な解決ができるわけではなく、足りていないエストロゲンの補充などの対処しかできません。また、多嚢胞性卵巣症候群は、プロゲステロン(黄体ホルモン)の補充などのホルモン療法や、低用量ピルなどでまず生理が来るようにするという治療をします。将来妊娠を希望したときに、自分の生理周期を整えることから始めるとなると、なかなか妊娠に至れないケースも少なくないので、無月経は放置せず、きちんと婦人科で治療してくださいね 」

illustration: Midori Komatsu

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高尾 美穂
産婦人科専門医・医学博士・婦人科スポーツドクター

女性のための統合ヘルスクリニック、イーク表参道副院長。文部科学省・国立スポーツ科学センターの女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバー。一般社団法人アスリートヨガ事務局理事、ドームのアドバイザーリードクターも務める。内科・婦人科・乳腺などを中心にクリニックでは診察を担当し、女性の健康をサポート。マターナル(周産期)ヨガを始め、ヨガセッションも積極的に行っている。また、プロアスリートのメディカル・メンタルサポート、女性アスリートに向けた、医学的知識の提供などにも積極的に参加。webサイト http://www.mihotakao.jp/ イーク表参道 http://www.ihc.or.jp/