ミトコンドリアは全身の細胞の中にある器官で、呼吸により酸素を取り込みATPと呼ばれるエネルギーを産生する人体のエネルギー工場。

約37兆個の細胞で出来ている人体の一つ一つの細胞に存在するが、一つの細胞に存在するミトコンドリアの数は数百~数千個と様々で、全身のミトコンドリアを集めると体重の約10%とも言われる。

「当然のことながら、このエネルギー産生工場の数が少なくなったり働きが悪くなったりすると、元気が出ない、疲れやすいといった症状に繋がります。ミトコンドリアの数を増やし元気にすることこそが、健康の土台になると言えるでしょう」

なかなか目に見えず数値でも測れないものの、病気に負けない免疫力の高い体を作るにも、ミトコンドリアが非常に重要だとパーソナルトレーナーの林健太さん。

絶えず分裂や融合、修復や排除を繰り返しながら数や大きさが変化すると言われるミトコンドリアは、一体どのように増やしていけばいいのか。

ミトコンドリアが好む「ストレス」と「栄養」をピックアップしてもらった。


①適度な持久的運動

「適度な運動は筋肉の量を増やしてくれることはもちろん、質も変えてくれます。筋肉の質こそがミトコンドリアの量と言っても過言ではありません」

一般的に、筋トレで鍛える速筋繊維(白筋)よりも有酸素運動で鍛えられる遅筋繊維(赤筋)のほうがミトコンドリアを多く含む。

つまり、持久的な運動を継続的に行うことでミトコンドリアの量を増やすことができ、疲れにくい体を作ることができる。酸素からエネルギーを作り出す器官であることを考えても、筋トレなどの無酸素運動よりも有酸素運動のほうが働きも活発になることが分かるだろう。

筋トレで筋肉を太く強くすることと並行して、質を上げる持久的な運動も行うことで強く疲れにくい体を作り上げることができる。


②断続的な寒い環境

寒い場所に行くと体が勝手に震えるが、これは筋肉の収縮により熱を生み出し体温を維持するため。これを「ふるえ熱産生」と呼ぶが、一方で「非ふるえ熱産生」と呼ばれる、運動に依存せず熱を作り出す仕組みがある。

「夏よりも冬のほうが体脂肪を燃やしやすいと言われる理由の一つもミトコンドリアの働きです。特に寒い環境下では褐色脂肪細胞の中にあるミトコンドリアが活性化し、より多くの熱を産生します」

褐色脂肪細胞とは、通常の体脂肪(白色脂肪細胞)がエネルギーを蓄えるが働きをするのと対照的に、脂肪を分解して熱を生み出す脂肪組織。

この褐色脂肪細胞をしっかり活性化させることにより、生み出す熱量が多くなり、メタボや肥満の改善にも繋がることが期待できる。


③ファスティング

お肌と同じようにミトコンドリアもターンオーバーを繰り返し常に入れ替わっている。このターンオーバーの一部を担うのがオートファジーと呼ばれるタンパク質のリサイクル機構。

「細胞内のタンパク質は常に入れ替わりながら細胞を若返らせてくれています。このスイッチをさらに強く押してくれるのがファスティングなど空腹(飢餓)状態を作り出すことです。運動、寒い環境と合わせて、体に良い外的ストレスの一つなので、定期的なファスティングはダイエットやデトックスなど目に見える以上の効果が期待ができます」

もちろんやりすぎは栄養失調を招くこともあるので十分に注意が必要だが、日頃からしっかり空腹を感じてから食事を摂ることも心がけてみて。


④ビタミンB1

ビタミンB群の中でもB1は糖質代謝の重要な補酵素。

糖質からエネルギーを作り出す際に、酸素を取り込みながらクエン酸回路(TCA回路)と呼ばれる機構を介することで多くのエネルギーを産生する。

「ビタミンB1が不足すると酵素の働きが弱くなり、クエン酸回路に原料をうまく取り込むことができなくなります。体内で作ることも蓄えることもできない水溶性ビタミンなので、糖質比率の高い食事をしている人や運動量の多い人は積極的に摂るように心がけてください」

通常の食事で不足することは考えにくいが、活動量が多く倦怠感が抜けないという人は普段食べているごはんやパンを玄米やライ麦パンに変えることでもビタミンB1をより多く摂取できるので試してみて。


⑤タウリン

タウリンと言えば思い浮かべるのが栄養ドリンク。イカやタコに多く含まれるアミノ酸に似た栄養素で、コレステロールの吸収を抑える働きなどを持つ。

滋養強壮のイメージが強いタウリンだが、心臓や肝臓、脳など様々な臓器に広く含まれているため生命維持には必要不可欠な成分と言われている。

「タウリンは様々な働きをする栄養素ですが、白色脂肪細胞を褐色化させ脂質代謝を改善させる効果もあるとされています。運動と組み合わせることにより、一層エネルギーを生み出す体へと変えてくれるかもしれません」

3年前にはミトコンドリア病と呼ばれるミトコンドリアの機能低下で起こる難病にもタウリンが有効であると発表され、日本で初めて保険適用された治療薬にもなった。(※注)

普段から疲れたときに何気なく飲んでいたタウリン配合の栄養ドリンクには、まだまだ隠されたパワーがあるかもしれない。

(※注)https://www.amed.go.jp/pr/2018_seikasyu_09-01.html

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林健太
NESTA公認トレーナー SIXPADオフィシャルトレーナー

 幼少期よりプロレスラーに憧れ、中学生の頃からジムに通い始め、高校・大学はアマチュアレスリング部に所属。
 卒業後、一度は就職するもプロレスラーの夢を諦めきれず2011年プロレスリング・ノアに入門。練習中の怪我により
 選手としてデビューすることはできなかったが、トレーニングを続けることで心身のモチベーションを維持し続けたことがきっかけでトレーナーとしての活動を始める。
インスタグラム: www.instagram.com/kenta_0327_/