ランニング前の朝食メニューとしても、マラソン大会のフィニッシャーアイテムとしても定番のバナナは、ある意味ランニングを象徴する存在と言える。これは誇張でも何でもない。

むしろ、ランナーがあまりにバナナを好むので、このフルーツに関連した珍妙な装置を作った企業があるほどだ。2015年、Dole(ドールジャパン)は、ランニングのタイム、心拍数、モチベーションを高めるようなメッセージを表示するバナナ型のウェアラブルデバイスを開発した。しかも、レースが終わったら食べてしまえる。これにはGarminも顔負けだろう。

ランナーがバナナを食べるべき理由

美味しくて栄養たっぷりのバナナは、英国でもっとも人気のあるフルーツ。実際に英国人は、毎年平均10kg(100本)のバナナを食べる。栄養価が高いので誰が食べても損はないし、ランナーにとってはとくに有益。

速効性のあるエネルギーを持続的に供給するバナナは、ワークアウト前の燃料補給にもってこいのアイテム。水分の含有量が少ない分、他のフルーツより高カロリー(中サイズ1本で約105kcal)・高糖質(27g)で、レースを走り切るための重要な燃料になる。バナナは消化されやすい炭水化物で、そこに含まれるスクロース、フルクトース、グルコースという糖類は、ランニング中の胃の不快感をもたらすことなく、持続性のあるエネルギーを供給してくれる。

バナナにはカリウムが含まれているのもうれしい。カリウムは、ナトリウムと協力して体液と電解質レベルのバランスを取り、心拍数を調節し、筋けいれんを防ぐミネラル。ランニングが心臓の負担になるのは否定できない事実なので、ランナーは走る距離にかかわらず、心臓の健康を第一に考えるべき。バナナに高濃度で含まれるカリウムは、心機能と血圧の調整に役立つことが証明されている。

バナナにぎっしり詰まっているもう1つの栄養素はマグネシウム。マグネシウムは体がカルシウムとビタミンDを上手く使えるようにすることで、健康かつ丈夫な骨の形成を助けてくれる。衝撃の強い運動であるランニングには強い骨が不可欠なので、ランナーにとってマグネシウムは非常にありがたい成分。

そのうえ、バナナは体だけでなく心もハッピーにしてくれる。これはバナナにトリプトファンというアミノ酸が含まれているから。トリプトファンは体内で気分をよくするホルモンのセロトニンに変換される。ランニングで分泌されるエンドルフィンと相まって、セロトニンは私たちをランナーズハイとも言うべき最高の気分にしてくれる。

スポーツドリンクを飲むよりもバナナを食べたほうがいい

科学情報誌『PLOS One』に掲載された2018年の論文によると、ランニング後のリカバリーにはスポーツドリンクよりもバナナのほうがいいオプション。

研究チームがバナナとスポーツドリンクの効果を比較したところ、バナナはスポーツドリンクと同等以上の抗炎症作用を発揮することが分かった。この研究では、定期的に自転車のロードレースに参加している22~50歳の男女20名が約75kmのコースを数回走った。参加者たちは最初のセッションでは水だけを飲み、あとのセッションでは水と230mlのスポーツドリンク、またはバナナ1/2本を30分おきに摂取した。

水だけを飲んだサイクリストは血中の炎症レベルが高かった。でも、この炎症レベルは、バナナかスポーツドリンクを摂取することで大幅に低下した。興味深いことに、バナナを食べたサイクリストは、炎症を悪化させる酵素COX-2の遺伝子前駆体の産生量も少なかった。

この研究論文の筆者で米アパラチアン州立大学ヒューマンパフォーマンス研究所ディレクターのデイヴィッド・ニーマン博士も、バナナによってランニング後のリカバリーが加速することを突き止めた。「スポーツドリンクが効果的であることに疑問の余地はありませんし、糖質組成だけを見れば、バナナとスポーツドリンクに大きな差はありません。でも、バナナには、スポーツドリンクでは摂取できない他の栄養素(ビタミンC、ビタミンB6、食物繊維、バナナ特有の代謝物)も含まれています」

だから、やっぱりバナナを愛さずにはいられない。

バナナの皮を捨てないで

実は、バナナの“皮”も体にいい。それどころか、バナナの皮は果肉そのものよりも栄養価が高いと言われている。ランナーがバナナの果肉に加えて皮も食べるべき理由は1つじゃない。バナナの皮は、果肉よりも大量のビタミンA、カリウム、食物繊維、抗酸化物質を含んでいるだけでなく、目と心臓の健康維持、気分の改善、ダイエットにも役立つ。また、バナナの皮が生分解されるのに2年もかかることを考えれば、皮を食べるのはエコな行い。

もちろん、硬い皮はそのまま食べても美味しくないので、スムージーに入れてみよう。ただし、かなり強力なブレンダーが必要になることだけは覚えておいて。

以上のことから、バナナはワークアウト前後のスナックであることが分かる。ベーグルに乗せたり、オートミールやスムージーに入れたり、ナッツバターを塗ったりと食べ方はいろいろあるけれど、他の食べものと同様、バナナも“バランスのよい食生活の一環として”楽しもう。
 
※この記事は、イギリス版『Runners World』から翻訳されました。

Text: Eve Davies Translation: Ai Igamoto

Headshot of 伊賀本 藍
伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。